マルコと銀河竜 ~MARCO & THE GALAXY DRAGON~ 感想

珍しく発売の結構前から気になっていた本作です。
ティザーPVの「え、何これ……」に全部持っていかれた気がしています。
あと一瞬、おいおいパワーパフガールズかよ、とか思いましたが改めて見たら全然違いました。
まあ、そんな感じです。
最近では珍しくパッケージ版で購入しています。
しかも特装版。
予約情報開示当初、本作をDL版を買うならSteamしか選択肢がなかったのです。
現在、DMMとDLsiteの両刀遣いですら管理に手間を覚えているのに、Steamまで手を広げるのはちょっと……。
加えて、特装版ならサントラのDL版コードが付くとのことで、これが決め手となりました。
最終的にはDMMのDLコードも付くことが分かり結果オーライ。
TOKYOTOONよ、最初からその情報を開示しておきなさい。

さて本作、試みとしては脱紙芝居、といったところでしょうか。
当サイトに掲載があるタイトルでは『魔法使いの夜』『凍京NECRO』の記事で、アプローチは異なるものの同様の試みが見られると書いていたような記憶があります。
本作の場合、位置づけとしては漫画とアニメの中間くらい? と言いたいところですが、単純化は非常に困難です。
強いて言えば絵コンテとアニメとADVを足して2で割ったような。
絵素材の潤沢な使いっぷりは漫画に近いのかとも一瞬思いましたが、漫画的表現技法とは言えないのでやっぱり絵コンテなんです多分。
だからアニメ化とかやったらすごいスムーズだと思います。

しかしながらこのスピード感ある表現は、我々が知っている従来のADVという括りがそもそも適切なのかという疑問を抱かずにはいられません。
完全に新体験です。
そういえば「立ち絵を排してアニメに近い表現に挑戦した」なんて本作と似たような触れ込みだった『マッチ売りの美少女』なるゴミも過去にありました。
言うまでもありませんが、あれとは全くの別物なのでご安心を(心配する人もいないと思いますが……)。
というか、どうやってこの物量を準備したのか不思議で不思議で。
どこでも普遍的に導入可能な手法であるなら、革命的であるとさえ言えるでしょう。
単純なCG枚数で見れば、一般的なPC向けADVタイトルの10倍以上。
本作の場合は差分無いのだったりカットインが多かったりするのでその分差し引いて、さらに甘めに見たとして、それでも3~4倍くらい?
CG枚数を準備しきれない他社のいいわけを潰す悪魔がごとき所業と言っても過言ではなく、ある意味ヒンシュクモノかも。
で、カラクリの答えはエンドロールにありました。
本来であれば原画のポジションであろう大空樹氏の役どころが今回は「キャラクターデザイン」となっておりまして、原画とグラフィッカーの項目にはそれらしい企業の名前がずらり。
一応氏は原画にもクレジットはされていましたが、実態は手のかかる部分を企業に任せ、メイン作家は監修とか最終の修正・調整だけ、みたいな流れだったのでは? という邪推です。
それくらいしないと用意できませんものこんなの。
やっぱね、ちゃんと金使わないと良いモノは作れないんですよ。
それだけやっているのでやはりというか、当たり前というか、表現の自由度は非常に高くなっています。
その恩恵を一番受けているのはギャグシーンでしょうか。
もうキレッキレです。
ADVで笑えるゲームを作るのは、それなりの泣きゲーを作るよりも圧倒的に難しいというのが私の認識ですけれど、なるほどこういうやり方があったか……、みたいな。

さらに素晴らしいのは、これだけ潤沢なリソースを用いながら驚くほどコンパクトにまとめ上げた点。
やろうと思えばいくらでも話は作れる素材はあるので、削る、あるいは圧縮する作業はかなり意識的に行われているはずです。
「なんでも出来る、けどやらない」というのは、クリエイター的に非常に勇気の要る決断だと思います。
特にPC向けADVの話の尺というのは非常に分かりやすい免罪符です。
ヤマもオチも弱いのっぺりした話でも「プレイ時間30時間以上!」とか「2.5MBの大ボリュームテキスト!」とか銘打ってあると、何故か許されてしまう風潮が不思議とあります(私は許容しませんが)。
本作でいえば、例えばイセザキ姉妹はじめ生徒会の面々の過去話で延々尺を稼ぐのは難しくないでしょう。
同様のことはハクアはじめ、アスタロト陣営側でも可能です。
しかし、そういう保身に逃げず余計な部分を削りブラッシュアップする道を選んだ。
これは大変に称賛されるべきです。
もしこれで、CGの分だけテキストも大ボリューム! とかやってたら台無しでしょう、間違いなく。
絶対にこのキレ味は実現しませんでした。

また今回、珍しく全年齢向けのタイトルをプレイしました。
PC向けのADVで全年齢向けって非常に印象が悪いのです。
多くの場合、それってただエロシーン抜いただけのモンキーモデルみたいなやつなので。
パルフェ』あたりでは悪夢を見ました。
あれは許されません……。
話がそれました。
本作に対しても、実はそういう不安がなかったと言えば嘘になります。
それが見事に杞憂だったのは全くもって嬉しい誤算でした。
キャラ萌え系のタイトルは、エロシーン込みでヒロインを消費するので全年齢だとおあずけが辛い。
それありきで作ってるのに、肝心のところ排除してしまいますから。
一方で本作、最初から全年齢で売るために組み立てられていると言いますか、ヒロインときゃっきゃうふふ型の消費形態ではないのです。
例えば自分のルーツを探すマルコの話だったり、ハリネズミのジレンマ的な何かを抱えるアルコの話だったり、自分が何者でどうしたいのか迷子になっているハクアの話だったり、これが上手いこと一本のストーリーの中で練られているのが巧みです。
この辺の話は、もちろんエロシーンに依存しません。
さらにそれを、先述のあまりにも新機軸な表現で描くものですから、そりゃ全年齢でも全然問題ないわけです。

というわけで、やたら上から目線で賢しらに書きなぐりましたが、満足度は極めて高いです。
しっかり練って金をかけて、かつそれに溺れず作り切れば、まだまだPC用ADVが二次元エンタメのフロンティアになりうる余地はあるのだと希望が感じられた一本でした。

2020.03.04