パルフェ ~ショコラ second brew~ 感想

本作が美少女ゲームの一つの到達点であると私は考えています。
どこが素晴らしいというより、どこにも穴が見当たらないのです。
全面的に高い水準でまとまっています。
強いてあげるならば、原画に若干の癖があるくらいでしょうか。
一枚画よりも立ち画の方が魅力的という稀有な原画です。

物語は主人公の元に一本の電話がかかってくるところから始まります。
この冒頭での世界への導入が実に巧みでスムーズです。
「私はあなたの幼馴染として~」なんていう日常会話として不自然極まりない導入が私は大嫌いなので、本作のスムーズさは実に心地よいものでした。
無理やりな会話で関係性を説明するより、地の文で説明した方が格段にスマートだと思うのですが、どうして違和感ありありでも会話による説明をしたがる作品が後を絶たないのか理解に苦しみます。
そして最低限必要な世界観の触りだけ紹介して、あとは物語を展開していく中で掘り下げていく過程も実に見事です。
快感すら覚えます。
これと平行して複線をばら撒き、話を小さなイベントごとにまとめてそれぞれにしっかりオチをつけていくという作業をやってのけるのですから、この丸戸史明というライターは他と比べやはり別格です。

キャラクターメイキングに関してもやはり秀逸です。
まず主人公とヒロインの関係性という点なのですが、舞台が喫茶店ということで、基本的には店長と店員です。
しかしそれに加えて、家庭教師と教え子であったり、複雑極まりない家族関係を持つ「きょうだい」であったり、店長と元店員であったり、この多様な関係性がそれぞれの物語において周辺に更なる枝を伸ばすことで、展開に厚みや深みを与えています。
またそれぞれのキャラクターも、ある程度は既存のイメージを使ってはいますが、それ以上に生身の人間というのをバックボーンに置いているように感じます。
特に萌え系の作品においては、実際にやってるやつがいたら引くような事ってよくあります。
何かあるととりあえず殴る、本当に炭になるまで焦がす、方向音痴にも程があるetc. ああいうのは他作品でウケたポイントを抽出し強調していった結果、現実から乖離し先鋭化していった表現です。
要するにアニメ・マンガ的なイメージをバックボーンに置いているのです。
そのようなキャラクターの作り方をすると、簡単に個性的なキャラクターが量産できる一方で、どうしてもどこかで見たような既視感が付きまといます。
少なくとも新鮮味に欠けるのは確かでしょう。
本作のキャラクターは、全員が強烈な眩しいばかりの個性を放っているわけではありませんが、それでも妙に印象に残るのです。
それはもう、私の好み云々では説明しきれぬほどに。
ゲームのキャラクターに人間臭さ、なんていうとゲーム脳だなんだと言われそうですが、本当にそういう類のものです。
生身の人間をよく観察しているのが強く伝わってきます。

昨今、作品ボリュームというのが一つポイントとしてとらえるユーザーが多いようです。
30時間楽しめるものと10時間しか楽しめないものが同じ値段では確かに文句の一つも言いたくなるでしょう。
しかしながらボリュームのありすぎる作品というのも、途中で断念してしまったり、他の作品に心移りしてしまったりで何かとリスキーです。
その点本作、非常にちょうどいいボリュームになっております。
休日であれば十分に一人攻略でき、平日であっても共通パート個別ルートにそれぞれ一日ずつ、合わせて二日あれば攻略できるくらいの分量です。
共通パート中もヒロイン個別のイベントが結構あるため、攻略ヒロインごとに何度か共通パートを繰り返すことになると思いますが、その中で伏線を確かめたりでき、それほど苦になりません。
また先述の通り、イベントごとにオチがつくので日常描写でも非常にテンポがよく、ありがちなダラダラとした中だるみは感じません。
ボリュームを稼ぎたいがためだけに挿入される伏線も何もないただダラダラしただけの日常描写ほど不愉快なものはないでしょう。
ボリュームは確かに重要ですが、ユーザーが求めているのは長さではなく面白さの長さです。
何の面白みもないものを延々と続けねばならない、これはただの苦行ですから。
適度なボリュームとその全般にわたる内容の充実、両者を両立させているのが本作です。

また、エロシーンもこれが上手いです。
興奮するとか抜けるとかそういうのではなく、エロシーンでもスキップしたくないのです。
下手な萌えゲーでエロシーンをスキップしたい欲求に駆られたり、実際にスキップされる方は少なくないと思います。
私もそうです。
特に抜けるわけでなく、かといって前後の文脈に関係ないエロシーンはだれるだけですから。
中身も、様式美といえば聞こえはいいですが、他のゲームのコピーアンドペーストを切り貼りしたような何の面白みもないものばかりです。
それに対し本作のエロシーンスキップしたいと感じないのです。
私自身理由を言葉にすることが出来ないのですが、少なくとも感動的なエロシーンというのを見たのは本作が初めてです。
R-18というレーティングを施してまでエロシーンを入れる意味を感じました。

以上踏まえまして、やはり本作は美少女ゲームの一つの到達点です。
これを越える作品がどんどん出てくるようになると、業界も盛り上がりますし、一ユーザーとして私も嬉しく思います。
どうもその気配は薄いようで悲しいですが。
発売から五年以上たった今でも、クリスマスには本作をプレイします。
各ヒロインのクリスマスイベントは何度やっても飽きる気配がありません。
現在萌え系作品を中心にプレイしていて、かつ本作を未プレイの方は是非とも、古きを温めてみるもの、たまには。