魔法使いの夜 感想

まずは謝罪から。
この作品を貧弱なネットブックで起動しようとした私をお許しください。
また、4月12日の発売日を信じずに申し訳ありません。
どうせ発売日になっても店に届いたりしないんだろ、なんて言ってごめんなさい。
スペックの足りているPCでプレイすると、グラフィックがすごいです。
CG一枚一枚の手の込み方が半端じゃありません。
そんな手の込んだCGが、そのままのクオリティでやたらと動きます。
形式としてはビジュアルのベルなのですが、もはや違う何かといった様相。
下手な深夜アニメよりもよっぽど動きがあります。

文字媒体でのアクション描写はなかなか難しいものです。
中でもバトル描写なんていうのは相当な難易度になります。
どうやってもスピード感がでませんし、消費者側がイメージできないものは描きようがありません。
動きの迫力というのは受け手のイメージを越えてナンボなところがありますから。
本作は先に述べたように、形式的にはビジュアルのベルの範疇になりますが、アクション、バトル描写についてかなりの労力を割いています。
とにかく、いかにして動かすべきところで画面を動かすか、そこに終始腐心している印象を受けました。
何がすごいって、今回の異常なまでに細かい手の込んだグラフィックを動かしているところです。
部分的、あるいは全編アニメーションで制作された作品はこれまでいくつもありました。
しかしアニメーションとなると、どうやっても一枚一枚のグラフィックのレベルは落ちます。
その点本作は、一枚の絵を動かしているので、ものすごく綺麗なままで動いてくれるのです。
ただし、やってることはFLASHのアニメーションと一緒ですから、上手くやらないとすごく安っぽくなってしまいます。
そのあたりのバランスは絶妙というほかありません。

BGMにもかなり力が入っています。
本作のパッケージを開けたとき、いきなりサントラのチラシが出てきて商売っ気出しすぎだろと思いましたが、少なくともプレイを終えた今はサントラを買う方向で心が固まってしまいました。
同人ゲームにも声が入る昨今、かなり少数派になってきたボイスレスも全く気になりませんでした。
むしろ下手に声があるよりよっぽど良かったです。
せっかくアクションシーンのスピード感にこだわったのに、ボイス再生で間延びしてしまってはあまりに無意味ですから。
もしかするとそのあたりの意図もあったのかもしれません。

テキストは少々クセがあるものの、私は大好物なので問題ありません。
話の流れだけみれば、少年マンガのバトルものに近い感じだったので、そちらに引っ張られた部分が大きかったです。
何より、これはビジュアルノベル用のテキストなのです。
グラフィックとBGMが合わさることを前提に書かれている印象を受けました。
これが絶妙にハマっています。
小説として単体で読んでもそれなりに面白かったでしょうが、BGMとグラフィックが合わさって全くの別物になっています。
アニメでもマンガでも小説でもなく、ビジュアルノベルだ、という感じです。

アーカイブというのが実にいい機能だと思います。
「あのあたりからやりたい」「あのシーンだけもう一度見たい」そんなときにすごく助かります。
また、こういうまとめ方が出来るというのは、それぞれのシーンでしっかり区切りがついているということです。
全体的に話のテンポが良かったのはそのあたりに一因があったのかもしれません。
さらに、本筋にとって必ずしも必要ではないシーン、番外編みたいなものの挿入にも役立っています。
先の展開が気になるのに、どうでもいい日常のグダグダを強制的にプレイさせられるのは最悪ですから。

公式サイトの「単純なテキスト量としては前作Fate/staynightの1/3程度に押さえつつ、前作を凌ぐ密度と完成度で作り上げられた」という文句は伊達じゃありませんでした。
素材のクオリティはもちろんの事、それらをこのレベルで組み上げるのにかかった労力を考えると、フルプライスでもむしろ安いくらいでしょう。
不要なところはとことん削って必要な部分だけ残し、その必要な部分の品質をギリギリまで高めた結果です。
私はこの「削る」という作業がとても重要だと思うのですが、なかなかそのあたり思いきってくれるところって結構少ないです。
そのあたりも含め、クリア後に「もっとプレイしたい」と思った時点でいい買い物でした。
次以降の作品展開について含みを持たせた部分があっただけに、今後の動きが気になる一本でした。


その動きが何年先になるかは置いておくにしても。