君が主で執事が俺で 感想

ポロっとゲームディスクが出てきました。
何故か2枚。
懐かしいですね、もう10年以上も前ですか。
つよきす』にドハマりして以来、私のタカヒロ信仰がピークだったころです(『真剣恋』で冷めましたが)。
授業サボってゲーム屋に行って、そのまま部室でプレイしてた思い出がよみがえります。
それを見越してわざわざ学校に近い、普段と違うゲーム屋で予約しましたもんね。
なら最初っから学校行くなって話ですけど、自宅だとほら、親がおりましたので。
いやホントに懐かしい。

当時は信仰心がMAXだったので見えない聞こえないフリしてましたが、今になってみると相当な突貫工事の跡が見て取れます。
かろうじて音声やBGM、背景やグラフィックといった素材は揃っているものの、森羅様ルート以外の尻切れトンボ感がひどい。
元々タカヒロ氏が重厚な世界観やら張り巡らされた伏線やら息もつかせぬ怒涛の展開やら、そういうので勝負する人じゃないので最初から期待もしていませんが、それにしたって取ってつけた感滲み出る各エンドが、あんまりにもあんまりで残念です。
久遠寺三姉妹のうち、年少の主従ほど残念クオリティ。
特に夢とナトセあたりは、プロット切らずにシナリオ書き始めめました、なんて言われても違和感ないです。
特に夢は残念な子。
お化け屋敷の顔芸で見せ場が終わりました。

邪推ではありますが、やっぱり納期とバトってたんじゃねえかなあと思います。
なんせリリース前にアニメ化が決まってましたもんね。
アニメ化の企画を進め、大御所声優の収録スケジュールを調整し、その片手間に本作の制作も……、なんてやってりゃそりゃどこかにシワ寄せが来るはずです。
しかも運転資金に乏しいブランド立ち上げ一本目ですから、なおさら。

その辺の迷走具合は、例えば挿入歌の使いどころなんかにも。
森羅様ルートで唐突に『Get up!明日への飛翔』なる楽曲が挿し込まれるのですが、すっげえ浮いてます。
挿入歌入れるほど盛り上がるシーンでなく、特に作品をイメージした歌詞だとかそういう関連があるわけでもなく、OPともEDとも違う曲調だったこともあり、未だにあれは何だったんだろうと印象深いです。

ただし全体で見るとどれもそこまで致命的というわけでなく、中の人ギャグやパロディのキレも中々。
今は亡き旧ジャイアンボイスが楽しめる貴重なゲームです。
製作期間がもう2か月取れてかつ、背景素材を多少追加出来たら、日常シーンは十分勝負できる作品になっていた可能性があったかもしれません。
というのも、作中通じて大半は久遠寺邸内にずっと籠っていた印象があります。
タカヒロ氏がどこかで「館モノ特有の閉塞感は出さないようにしたい」みたいなコメント出してましたが、結局それは打破できなかった模様です。
主人公もずっと掃除くらいしか仕事ありませんでしたし。

とは言え、森羅様は実にタカヒロ氏らしい趣味で仕上がっていますし、未有様は乳が無いなりにお笑い要員として素晴らしい働きをしております。
IQ240って設定がもう一周してギャグですもんね。
知能指数を無駄遣いした良いツッコミでした。
彼女がいなければツッコミ不在のカオス空間です。
個人的には大佐が一番ヤバいやつです。
久遠寺家の面々で唯一まともっぽく見えるからなおヤバいです。

タカヒロ氏か、あるいは他のスタッフの誰かかは知りませんが、みなとそふとのメイド服のデザインは好きです。
メイド服はこうでなくては。

世の中にはレースやフリルを過剰にあしらったメイド風衣装がたくさんあります。
そんな服でお仕事できますか? 作業の邪魔ですし、毎度の洗濯もすごい手間でしょうとも。
メイド服っていうのはあくまでメイドっていうお仕事の作業着なんですよ。
車の整備や道路工事をタキシードでやりますか? 板前さんが羽織袴でマグロ捌いてたらどう思いますか? 華美な装飾を施したメイド服ってのいうのはそういうものなのです。
実用性重視の服だからこそ、キャラクターそのものの良さが引き立つのです。
そういう実用性と、それを損ねない最低限度の装飾のバランス感覚に、みなとそふと分かってるな、と感じるわけです。
着飾った姫様をちやほやするのは当たり前ですが、そこであえて誰も見向きもしない地味で野暮ったいメイドの方に目を向けるっていうのは、ある意味メガネっ娘に通ずるものがあります。
私はその精神を『さかしき人にみるこころ』で学びました。

メイドの悲劇は、概ね2000年前後のブームに集約されます。
流行りましたよねメイド喫茶。
文脈を無視して部外者が流行に乗っかろうとすると、大抵ぶち壊しです。
メイドの場合も、何故かゴスロリと合流してわけのわからないモノになってしまいました。
着飾ったメイドっていう自己矛盾。
未だに秋葉原にはメイドが生息しているそうですが、その在り様も服装も、まあもう魔改造の成れの果てみたいな感じで笑えます。

そういえば原画の白猫参謀の名前を見たのは本作が最後のような気がします。
一応『太陽の子』にも参画していましたが、結局未遂だったのでノーカンです。
あれも今年の10月で制作発表から10周年らしいですぜ? 公式サイトも消滅したし、もう出ないだろうなあ。
私の中ではるーすぼーいがプロットを流用して『ぼくの一人戦争』を作ってしまったという事になっています、勝手に。

本作の次には『真剣で私に恋しなさい!』が出たわけですが、そこに白猫参謀の名前が無くて残念だった同士も多くいらっしゃったのではないでしょうか。
私はそのクチです。
後になって思えば、多分あれを白猫参謀にやらすのは無理だっただろうなと断言できます。
白猫氏、基本わりとハンコなので、あの人数は絶対描き分け出来ません。
まあ、インターハートから引っこ抜いてきたんだから、モブの仕事くらい振ってもいいんじゃね? なんて思ったり思わなかったり。
頭身のバランスが違うんで浮いちゃうでしょうが、そこはほら、塗り合わせれば大丈夫だって! 多分。
それすらなかったって事は、『太陽の子』と一緒に、白猫参謀も消されてしまったのでしょうか。
とても悲しい。

俯瞰すると、独立一本目で当面の資金稼ぎ用に作ったようなタイトルです。
タカヒロ氏の狡猾なところは、自分のセールスポイントがどこで、ユーザーが何を求めているのかかなり自覚的であるという点です。
美少女ゲームアワード2007年度においてプロモーション賞受賞は伊達ではありません。
受賞がプロモーション賞のみというあたりに、内容はさておき、いかに売るかを重視したかが見て取れます。
やはり氏はクリエイターというより商売人だなと再認識できる一本です。

2019.04.18