積みゲー賽の河原



さかしき人にみるこころ

眼鏡少女という、地味で野暮ったいイメージの、しかしクラスに一人は必ずいるであろう存在を、あえて持ち上げたところに「萌え」というもののすごさがあると言ったのは本田透です。私は彼の語る「俺の考える萌えはこんなにすごいんだぜ」という主張があまり好きではありませんが、この考察だけは納得しました。今では眼鏡がファッションの一部になっているのですから、最初に二次元美少女に眼鏡を装備させたクリエイターは偉大です。先見の明とはまさにこのことでしょう。私も少し前まで、眼鏡少女はあまり好きではありませんでした。それを一変させたのがこの作品です。

ジャンルが「クールビューティーペダンチック恋愛ADV」ということで、まあどういうものか見当がつきません。この業界ではいつものことですが、本作では珍しく解説が載っていました。曰く、「「ペダンチック」ADVとは?“Pedantic”=訳:学者ぶった、知識をひけらかす」だそうです。なるほど確かに、とプレイ後には納得しました。ヒロインも主人公もやたらと負けず嫌いで、よくウンチク合戦をしては私をニヤニヤさせてくれたもので。すみません、気持ち悪い余計な情報が入りました。

テキストには少しクセがありますが、そのうち気にならなくなるでしょう。ADV形式とビジュアルノベル形式が混合しているのも、場面、視点の転換が分かりやすく上手いです。公式サイトではボリュームはフルプライス作品の一キャラ分くらいはあると言っていますが、個別ルートで一キャラではなく、最初の共通ルートから数えて一キャラ分のボリュームです。
つまり、価格的には十分すぎます。

攻略ヒロインが一人ということで、個人の好みが重要になるかと思いますが、私はこの真柄亜利美サン、どストライクでした。知性派美女って素敵だと思います。そもそもこの作品、買う予定はありませんでした。しかしパッケージを見た瞬間、こうビビっと。それでプレイしてみたらロープライスとは思えない高いクオリティのシナリオにボリューム。これだから衝動買いはやめられません。quick save&lordやバックログは標準装備。
ロード直後にバックログ使えるのが、実は嬉しかったりします。その他必要なものは大体揃っています。それに加えいくつかのBGMを過去作から流用するなど、大手ならではの節約術でこの価格は実現しているらしいです。このレベルなら私は5000円までなら出します。

亜利美を演じる青山ゆかり嬢が良い仕事しています。ファンならば購入必須でしょう。私はドラマCD欲しさに思わず主題歌CDを買ってしまいました。本編と値段がほとんど変わらない主題歌CDって正直どうなのでしょう。考えたら負けです。ゆかり嬢、ひいては亜利美のためなら、出費を惜しむなど愚かな行為に違いありません。

主人公が根拠なくモテて、ヒロインは最初から主人公にベタ惚れ、ないし優しいだとかそれらしいわけのわからない理由である日突然ベタ惚れ、わりと早い段階からハーレムを形成し、最終的に主人公が誰の処女を奪うか決めるだけ、というよくある形だけ整えた学園ラブコメ(必然性はないのになぜかとりあえず学園ですよね)に嫌気がさしていたのですが、本作は違います。主人公がヒロインを口説き落とす、その過程が実に上手く描かれており、本来ならば恋愛ADVってそうだったはずだよねという本来的な姿が、むしろ新鮮でした。この手のゲームにリアリティなど求めるのがナンセンスなのはわかっています。しかし、だからと言って何のとりえもない平平凡凡な主人公(なんで「平凡などこにでもいる」がいつも強調されるのか、これに関しても甚だ疑問です)が突然ハーレムを形成するのはいくらなんでもちょっと無理があるだろう、と。特に断りがない限り、作品世界は我々の常識の範囲内で展開されるはずです。突然、世界は平らで、水は上に向かって流れると言われても理解が追いつきません。その点で本作は実にいい仕事をしたと言えるでしょう。美人は突然降ってはこない。
自分で落としに行かなくては。ちょっと現実に目を向ければすぐわかる、当たり前のことです。この手のゲームにそんなこと言ってたら始まらない。それは事実でしょう。しかし先に述べたような、形だけ整えた空虚なゲームの粗製乱造がなされているというのもまた事実です。そもそも「恋愛ゲーム」だとか「恋愛ADV」なんていう言われ方がされ、作る側もそれを意識しているのに、根拠なくただモテるだけの主人公がブラックホールがごとき吸引力でもってヒロイン達にアタックされる、というのは恋愛を主軸においた物語としてどうなのでしょうか。私は恋愛のイロハに明るくはないのですが、それでも因果関係が成立していない物語というものに気持ち悪さを感じます。そのまっただ中で、こういった作品が、しかも低価格で出ている。形だけそれらしく作ったフルプライスで、お金だけでなく時間までユーザーから奪っていくクリエイター未満の新規ブランドが乱立する中、比較的大手がこういった作品を作っているというのは、それだけで意味があることだと私は思います。久しぶりに、こんな高校生活面白かっただろうな、と感じた一本でした。