つよきす 感想

「ヒロイン全員ツンデレ」という非常にキャッチーな謳い文句で世に出されたのが本作です。
ですがライターが自ら言っているように、いわゆる「ツンデレ」然としたヒロインというのは作中で一人だけです。
実際の見どころというのは、物理的に精神的に「強い女性」というものに主人公の方からアタックをかけていくところにあります。
そしてこの「強い女性」を落としていく過程を、当時流行っていた「ツンデレ」というワードに便乗させた、と捉えるほうが本作を考える上では適当でしょう。

少々長めのプロローグを終えると、移動パートに突入し、同じヒロインのアイコンを四回選択すればルートが確定します。
個別ルートに入るとそれぞれのルートが交わることは一切ないので、ライターの仕事量が増えるかわりに、面倒な好感度やフラグ管理をしなくていいスクリプターは比較的楽をできるという、ある意味清々しささえ感じるシステムです。

基本的にBGMが力入ってます。
それぞれを単体でいつまでも聞いていたいとかそういうものではないのですが、後ろで流れているとしっくりくるというか、邪魔にならないというのが適切かもしれません。
またエンディングが素晴らしいです。
こちらは本当にいつまでも聞いていたいというレベルの仕上がりです。
ただ惜しむらくは、初回版の同梱ディスクしか音源がありません。
データはいくらでもネット上に転がっていますが、ファンたるものしっかり音源を手元に置いておきたいものです。
まあそれなりにヒットした作品なので、ちょっと探せばすぐに見つかると思います。
エンディング一曲の音源のためにフルプライスのゲーム一本買う余裕があれば、の話ですが。

また作中の笑いが秀逸です。
どこまでもかわいそうな愛すべきバカ、フカヒレを生み出しただけで本作は十分以上の価値を持っているとさえいえるでしょう。
加えて、友達のペットのザリガニを食べた過去を持ち、身を挺してゴキブリを守るというありえないヒロイン、蟹沢絹。
この二人のエースを中心とし展開される笑いは、多用されるパロディネタを除いたとしても高水準のレベルを持っていたはずです。
またそのパロディネタに関しても、その多くが元ネタが分からなくとも比較的気にならないレベルで組み込まれており、それほどには嫌悪感を持ちませんでした。
とにかく笑いに関してはフカヒレ―カニのラインが強力すぎます。
好きな方には怒られるでしょうが私個人の感覚としては、カニの立ち位置がヒロインではなく、完全にお笑い担当のサブキャラでした。

さて本作、いまだに「ツンデレ」というところが非常に注目されますが、先にも述べたとおり私はそれはおまけに過ぎないと考えています。
昨今の萌え系作品においては、最初からヒロインの好感度がほぼMAXである、気がついたらヒロインの好感度がMAXになっていた等々、主人公が行動を起こすことなくいつの間にかハーレムが形成されていることが多々あります。
私はこれが気持ち悪くて仕方ありません。
根拠がないのです。
結果だけあって、原因がどこにも見当たらない。
例えばアクション映画で、巨大な悪と戦う主人公がいたとします。
ここでの見どころとはどうやって主人公が悪を倒すかというところにあるのに、なぜか分からないけど気がついたらいつの間にか倒してしまっていました、となるともうこれは破綻しているとしかいいようがないでしょう。
根拠なきハーレムというのもこれと同じことです。
「恋愛ADV」を謳っておきながら、です。
そして主人公はそのハーレムの中から一人を選ぶだけでいいのですから、「大奥ADV」とでも名乗った方がまだ的確ではないでしょうか。
その一方で本作なのですが、この好感度の根拠というのを「過程」においています。
主人公とヒロインが徐々に距離を縮めていく様子が実に丁寧に描かれているのです。
あるルートでの「特に大きな出来事はなかったが、いつの間にか出来ていたこの関係がある」という台詞がありますが、これが全てを象徴しているでしょう。
また、主人公がアプローチを仕掛けていかないとヒロインは主人公に恋愛感情を抱きませんので、ハーレムが形成されることもありません。

どうも「ツンデレ」というキャラクターの内面性まで記号化しているようで、近頃の「ツンデレ」と呼ばれるキャラクターたちは皆一様に「勘違いしないでよね」「あんたのために~」を本当に口にし、とりあえず殴る蹴るの暴力に訴えます。
「ツンデレってどんなキャラ?」という問いに対する答えとして、半ばネタとして使われていたステレオタイプがそのまま流用されているのです。
そこにクリエイターの創造性は皆無です。
この要領で「ヒロイン全員ツンデレ」をやったら、まあロクなことにならないでしょう。
何せ全員が「あんたのためにやったんじゃないからね」で、返事の代わりに暴力を返してくるのですから。
そして本作は当然そのような形にはなっておりません。
先に述べたとおり、本作での「ツンデレ」とは結果的についてきたおまけみたいなものです。
「ツンデレ」ありきのキャラクターではなく、キャラクターを分類した結果の「ツンデレ」なのです。
強い女性が主人公に口説き落とされ、主人公にだけ見せる新たな一面。
そのギャップをツンデレと解釈し、それを前面に押し出してのプロモーションを行ったに過ぎないのです。

「ツンデレ」や「パロディネタ」で持ち上げられることの多い本作です。
しかしてそれを支えているのは、そんなキャッチーな部分以外での美少女ゲームとしてのしっかりした土台です。
主人公がアプローチを仕掛け、それによって変化していくヒロインの態度。
まさに高嶺の花を手折るという感じがして良いです。
そういったところがしっかりしているからこそ、未だに根強い人気があるのでしょう。