徒花異譚 感想

おーおーアニプレックス様みたいな大企業が、斜陽も斜陽なPC向けADVに今さら何の用なん? みたいな限りなくケンカ腰で第一報を目にした今回の企画です。
私のライアーソフトに何さしてくれとんのじゃ、的な。

制作:DMM 開発:ライアー&シルキーズプラス
シンソウノイズ
制作:アニプレ 開発:ライアー&シルキーズプラス
⇒徒花異憚

いいように使われるばかりの俺たちのライアーソフトちゃうぞ! みたいな気持ちが無いと言えば嘘になります。
とはいえ悲しいかな、出してくれるならそれだけで嬉しくなるようすでに心身共に調教されてしまっているのです。
なので、同時にもう一本リリースされている『ATRI』の方は優先度低め。

というわけで本作。
蓋を開けてみたら価格の割にすごく手の込んだ作りで、アニプレマネーヤバいです。
丁寧な作りのライアーソフトとかいう自己矛盾。
懸念点だった全年齢というレーティングも、内容が全然エロありきじゃないので特に問題ありません。
というか、アダルトPCゲームにとってのエロってなんなんでしょうね?
一度頭の中を整理してみると面白いかもしれません。
今年は『マルコと銀河竜』と合わせ、そのあたりへの認識を改める年となりそうです。

今回のアニプレックス側のプロデューサー氏によると、ノベルゲーの面白さをもっと世間に知らしめたい、みたいな思いがあるようです。
その視点でみると、そういう意図が感じられる部分がありまして、例えば物語(プレイヤー視点)の中の物語(冒頭のキャラ視点)の中の物語(白姫視点)という入れ子構造。
花さかじいさんたちの個別の物語を内包しているからこそ、選択次第で結末が変わるというシステムがより分かりやすく体験できるようになっています。
しかもそれがさらに複数の階層で展開されるので、ユーザー的には「自身の選択で変わる結末」が認識しやすくなります。
また本作、普通にプレイすれば初回でトゥルーエンドは到達が難しいので、恐らくは2周目以降でトゥルーに到達してほしい、という設計なはずです。
ノベルゲーをプレイし慣れている我々からすると「何を今さら」って話ではありますが、遊び慣れていない人には「なるほどこういう選択の試行錯誤でそれぞれの結末に辿り着く遊びなのか」という理解を促す、とかそういう思惑があるのかもしれません。
こういう古典的童話をモチーフに、というのは『Forest』や『フェアリーテイルレクイエム』などライアーっぽさと見せかけて、それを活かしつつ本来のテーマにも落とし込むとか、プロデューサーの手腕ヤバくないですか?

グラフィック面も、独自路線ぶっ飛んでる感じが実にライアーらしくて良い、と言いますか大石竜子氏がぶっ飛んでます。
氏の仕事には毎回びっくりなのですが、今回もやっちゃってますね。
なにこのフィット感。
日本のおとぎ話っぽさに和の柔らかさ、要所要所で差し込んでくる色彩の暴力が、なぜか同居しているっていう不可思議です。
各話のラストで白姫が墨に染まるシーンとか、本作あれだけで元が取れます確実に。

DMM GAMES版は「ブラウザでスマホからプレイできるよ!」みたいな作りになっていて、スマホでやる意味分からんとか思っていましたが、これもノベルゲーに馴染みがないユーザーの取り込みの一環なんでしょうね。
冒頭にも述べた通り、斜陽も斜陽なこの業界なので、こういうユーザーのすそ野を広げる取り組みってのはホントありがたいです。

実は個人的に、ノベルゲーという呼称は好みません。
YU-NO』や『EVE』をプレイしてからこっち、ADVという媒体は明らかにインタラクティブな遊びであり、ノベル、すなわち小説とは一線を画するものだという矜持を持っていました(≒ただの面倒臭いヤツ)。
しかし、本作に限っては、プロデューサー氏の志に感銘を受け、ノベルゲーという呼称を用いています。
まあ、だから何だって話なんですが。
ライアーソフトの味わいを軸に、プロデューサーの意図もしっかり感じられる、良く練られた企画が見事な一本でした。

2020.07.07