シンソウノイズ~受信探偵の事件簿~ 感想

Liar-Softとシルキーズプラスのコラボという、明らかに私のために企画された本作ですが、仕掛け人はDMMみたいです。
Liarはいつの間にか流通をホビボックスに乗り換えていますし、シルキーズプラスもDMM専売を強く押し出していましたからホビボックスでやっているのかもしれません。
で、ホビボックスはDMM傘下ですので。
このコラボで原画にはましま氏を起用しているのもそういう背景でしょう。
一応今はフリーですけれど、はましま氏が以前所属していたCLOCKUPもバリバリのホビボックス傘下ですから。

ネット認証が初めてのタイプでしたが、効果があるようならホビボックス系列のところは標準装備にしていただきたいです。
極端な話、ここまで手間かけるならコードの認証回数制限ありでも構いませんので。
違法ダウンロードをどうするかはメーカーによって考え方あるかと思いますが、何も対策を講じていないというのは正規購入ユーザーを軽んじているという見方をされても仕方ないと思います。

さて本作、「受信探偵」と銘打たれていますが、ミステリとサスペンスの合いの子みたいな印象です。
一応両者の区別は、犯人の正体を物語の中で暴いていくのがミステリで、犯人を追い詰める過程を描くのがサスペンス、もっと簡単に言うと犯人が最後に明らかになるのがミステリで最初から分かっているのがサスペンス、となるようです。
本作の場合、主人公の能力で犯人は特定できてもその時点では論理的な説明が出来ないため、ゴールに向けて論理パズルを組み立てる必要があります。
そのため合いの子なのです。

そしてこの推理フェイズがなかなか面白いです。
特に第五章の出来は素晴らしく、謎解きゲームの結果が、普通に解いた場合と犯人からの条件を加味した場合とで全く別の解答になった時は思わず声が出ました。
また推理自体も、私のピンボケ脳でも作中のヒントのみで十分真相に辿り着けるレベルなのでありがたいです。
同じようなミステリーでも『殻ノ少女』なんかは全く歯が立たなかった苦い思い出もありますので。

この、心の声は聞こえるが誰の声かは分からない、という設定が絶妙です。
相手の呼び方や口調も判別不能になるので、これ自体が一つの論理パズルになっているともいえますし、本音と建前を両方提示することでキャラクターへの理解をより深めることにも成功しています。
確かに、建前の発言と本音の心情を「」と()で使い分ける作品は多くありますが、あくまで受動的な理解にとどまるケースが大半ですし、作中のごく一部にとどまります。
一方で本作は、誰の発言なのか理解するために能動的に考える必要があります。
発言毎に、これは誰の発言、次は誰の発言、と意識しながらの方が、間違いなくキャラクターの深堀りの助けになります。
なかなかに面白い体験でした。

ストーリーについても実に秀逸で、個別の事件を解決しつつそこに複線をばら撒いて、それらが雪本さくらを殺した犯人は、という一点に向かい収束していく様はそれだけで快感です。
テキストもストレスを感じない過不足のない仕上がりでストーリーの邪魔をしません。
ばかりか、ちょいちょい挟まれる笑いが事件のシリアスさとのメリハリを付けてくれ非常に良いです。

ただし、個別ルートについては期待しないほうがいいでしょう。
個別ルートというよりは必要数のエロシーンを用意するために止む無く、くらいの印象があります。
決してヒロインに魅力が無いわけではありません。
むしろ下手な学園ラブコメ系よりよほど破壊力はあります(ゆるふわ頭弱い系ヒロインはあれですけど)。
しかしそっちにいってしまうと、内容的には『ハート・オブ・ウーマン』みたいな方向に脱線しかねませんし、何よりも萌え系で相手の心を読むってかなり嫌らしいです。
少なくとも、作品のコンセプトがぶれてしまうのは間違いないでしょう。
それに個別ルートにあまりボリュームを持たせると、雪本さくらの事件なんてそりゃ細かいところ覚えてられません。
普通にやっても忘れているのに、これで個別ルートもがっつりやられたらそりゃ謎解きどころではありません。
そのあたり考えると、個別ルートにリソースを割いていないのは必然でした。

正直なところ、体操袋盗難事件の時、業者のワックスがけで臨時午後半休みたいな状態なのにどうして野球部は昼一で練習試合が始められるんだとか(試合相手?)、その練習試合が午後2時には終わっていてしかも撤収まで完了している不思議とか、あれこれやばいんじゃね?と不安がよぎりましたが、幸いな事に私の目は節穴だったようです。
大変気持ちよくプレイさせていただきました。

この手の企画主導の作品作りは、もっと積極的にやっていいのではないかと思います。
惰性でそれっぽく体裁だけ整えた作品とは、中身の濃度に格段の差が生まれます。
ネタがない中でも、存続のために作品は作り続けなければならないのが商業作品の悲しいところですので。
その辺含め、DMMがいろいろと可能性を感じさせてくれた一本でした。

2017.01.31