この青空に約束を― 感想

意外にも、丸戸氏による純粋な学園モノというのは、今のところ本作が最初で最後になっております。
一応『FOLKLORE JAM』も学園モノではありますが、如何せん伝奇的な要素が強いもので。
ラノベ?知りませんよそんなの。

学園モノというと、萌え系ADVにおける一つの王道と称されたりします。
しかしながら王道という言葉は、どうにも世の中で2つの意味で使われているように感じるのです。
1つは安易でありきたりな様。
もう1つは基本に忠実で優れた様。
言葉本来の意味は前者のようですが、私個人的には後者の意味でポジティブに使いたい言葉です。
両者を区別するのに、本作は丁度良い材料なのではないかと思います。

王道という言葉を口実に、テンプレをただ並べて体面だけ整えた制作意欲を欠片も感じない作品はしばしば見かけます。
正直何の面白みもありません。
設定だけみればそれなりに整っているのでしょうが、その設定を持ってきた意図が介在しないため非常に薄っぺらく感じられてしまうのです。
まさに「安易でありきたり」なのです。

さて本作、他の作品では見たことも聞いたことも無い突飛なアイデアがこれでもかと詰め込まれている、なんて事はありません。
一つ一つの設定を見ていけば学園モノの枠の中に納まる範囲、むしろ地味でキャッチーさに欠けるとさえ言えるかもしれません。
しかしながら、全体的な濃さでいえばそこらの凡百の学園モノを圧倒しているのです。
何故か。
それは丸戸氏の意図に基づき、何らかの理由に基づいて個々の設定がなされているからです。
極論すればその設定自体は重要ではなく、その裏にある意図(例えばその後のストーリーの伏線など)と矛盾しないのであれば、代替の設定でも構わないくらいに考えているのではとすら感じます。
そういえば『時空のデーモンめもらるくーく』の時に、イラストのかんなぎれい氏が言っておりました。
丸戸氏はヒロインのビジュアルに全く拘りがないのではないかと。
どこで読んだのかは忘れましたが。

横道にそれました。
先述の、きちんと意図を持って設定がなされている結果、設定同士が複雑に連動しあい、結果として濃さ、世界観の深さが実現しています。
私個人としては、こういう作品制作姿勢をこそ王道と呼びたいのです。
コンセプトという骨子に肉をつけ服を着せていくという「基本に忠実で優れた」制作です。
服を着る肉の輪郭があって、その肉を支える骨格があるからこそ、外面から見て違和感無く感じられるのです。
服から作ってもろくなことになりません。
酷い場合は骨が無いままリリースされますし。

丸戸史明大好き語りが終わったところで本作、これだけ賞賛した後で大変恐縮ですが、個人的な事情で鈴と宮がイマイチなあ、という。
ちょっと幼女過ぎますよ。
本来であれば、興味が無いところに無理矢理特攻するのは愚の極みですが、本作の場合全ヒロインのエンディングに到達しないとTRUEに辿り着けないのだから仕方ありません。
TRUEに辿り着かないと本作に手をつけた意味がありません。
『さよならのかわりに』が涙でみんな歌えなくなっていく演出は、あれもうずるいです、反則的です。
いやむしろ、あの演出が反則的な破壊力を持つまでに、よく積上げてくれたなと。
その発想でいくと、各ヒロインのつぐみ寮に対する思いを掘り下げるために、やはり全ルート後のTRUE開放は必然だったということです。
それに幼女以外のヒロイン陣は十分以上に琴線レベルですから、収支で言えば圧倒的黒字です。

誰もが忘れていたであろう、航の逢わせ石の片割れはいずこへ?というところまでしっかり回収するあたりもさすがです。

一通りコンプリート出来たら、2周目以降は『フォセット』のメモリアルモードを利用すると便利で良いです。
同じPCにインストールされていれば一本で『ショコラ』『パルフェ』『この青』全てのおまけモードが閲覧できます。
誰得機能としてプレイログが付いていますが、確認したら奈緒子ルートのイベントが閲覧回数ぶっちぎりでした。
時点で凜奈。
奈緒子の手の平の上で一生踊り続けたいというのは、学生時代から変わらぬ切なる願いのひとつです。
実行犯:航、参謀:奈緒子で南栄生町長選挙に出馬とか超見たいです。

悪名高き戯画マインではありますが、この時代だけは例外でした。
最近はめっきり戯画作品をプレイすることも無くなり、被害にあうこともなく平和を謳歌しております。

彼らが地雷を生産してしまうのは、彼らの目的が作品制作ではなく自社エンジンの開発にあったためだという説をかつては唱えていましたが、実態のところはどうなのでしょうか。
傘下のパートナーブランドにとって、このエンジンが使えるというメリットは計り知れないと思います。
いわばその生贄の成れの果てが戯画マインであると。
100%邪推ですけれども。

私の願いはただひとつ。
丸戸よこちらへ帰って来い。
改めて痛感する一本です。

2017.08.06