和香様の座する世界 感想

なんでかわからないけれど、みなとそふとで田中ロミオが全年齢で書いてる!っていう前作『少女たちは荒野を目指す』は、ほとんど記憶の片隅で抹消されかけておりました。
本作の情報を目にして、そうか、また同じ過ちを繰り返すのかと、思わなかったかといえば嘘になります。
しかし悲しいかな、ゼロ年代にアダルトPCゲームをやっていたユーザーの中には「田中ロミオ」の名前があるだけで無視できない、期待せずにはいられないというパブロフの犬が一定数いるのです。
というわけで、ほとんどお義理で買った本作でしたが、なんやかんやでタカヒロ氏の舵取り、修正能力はさすが商売人といった様相。
企画とシナリオで絶妙な噛み合いを見せてくれて、良い意味で裏切られたという印象です。

プレイしてて面白いなと思ったのは、タカヒロ氏の匂いとロミオ氏の匂いがどちらも感じられる点です。
例えば、和香様のキャラクターデザインはこれ、誰が何と言おうとタカヒロ氏の趣味です。
舞台となる葉倉も、神奈川パラノイア(ただし背景素材流用等、戦略的に行われている可能性が高い)であられる氏の典型的な症状ですし、戦闘の際は祈祷師のノリがいかにもJRPGっぽく、いかにもな「らしさ」が感じられます。

一方で、時にコミカル、時にシニカルな言い回しの軽妙さはさすがロミオ氏です。
パロディの使い方なんかも、やはりタカヒロ氏とは毛色が異なります。
タカヒロ氏のパロディが「ここネタぶっこんでます!」系なのに対し、ロミオ氏は「あれ、気づいちゃいました?」系です(ニュアンス伝わるでしょうか?)。
どちらかといえば私は後者の方が好きです。

またストーリーの展開的にも、序盤~中盤のドタバタわちゃわちゃの雰囲気はタカヒロ氏の企画通りな気がします。
一方で終盤のどんどん話が壮大になっていって、なんやかんやで世界がどうだとか言いだしたのは、これはロミオ氏の仕事ではないかなあと思っています。
こういう世界観設定と直結して、それに乗っかって展開していく手口は、タカヒロ氏の守備範囲ではありません。
それこそ『最果てのイマ』とか『CROSS†CHANNEL』とか(何故両傑作とも当サイトに感想が掲載されていないのかは謎)、流れとしては近いものがあるのかなあ、なんて思ったり。

最終章の「和香様の座する世界」に突入してからスルスル伏線が回収されていくのはホント気持ち良いです。
全体的に、絶妙に気になるようにいろいろバラまかれているので、ホント、ロミオ氏の手のひらの上で弄ばれた心地です。
これ全部計算ずくなんだろうなと、嫌みなく感じられるからすごい。
水蛭子神のくだりなんかはマジかぁ…って思いましたし。
中二時代に日本神話にかぶれた人からすると、驚きでも何でもないんでしょうか? 私は神話系には全くなびかなかったのでよく分かりませんが。
この歳になると、さすがに本作をきっかけに日本神話勉強しなおそう! とかそういうテンションもありませんし。

歳といえば、最近はキャラの声を聴いても声優の名前がわからず、クレジットを見てもやっぱり知らない名前で、声と名前が全く一致しない状態が続いていました。
特徴ないねん最近の声は、なんていう老害一歩手前、あるいは手遅れ状態です。
ですが本作、そんなパブロフの犬世代にも優しいキャスティング。
声聞いてスラスラ名前が出てくるのはいつぶりでしょうか。
久しくなかった安心感です。
声で言えば店長、ロミオ氏の作品だとやたらお会いする印象です。
まさか2回目の店長されるとは、なんて思ってたら主神にまでご出世されて。
一人だけ立ち絵のテイスト浮いてね? なんてのがどうでもよくなります。
なんか没企画から使える素材サルベージしてきちゃった? 的な。
その説でいくと、本作のミドルプライスにあるまじきボリュームがちょっとは説明できるかも、なんてのはひたすらに邪推です。

あと感慨深かったのは、タカヒロ氏が仕掛けたギミックが、初めてゲーム本編と連動してて面白いなと感じた事でしょうか。
氏は結構な頻度で「〇〇システム!」みたいにギミックぽいのぶち込んでくるのですが、なかなか実らないんですよね、毎回。
なので今回も、あーはいはいビックリマンシール揃えるんですね、だったのですが、シール無いと話進まんやんけ、となりさらに、この画面で話進めちゃうのか……、っていう三段活用です。
大分被せてきました。

惜しむらくは、パッケ版のみでDL版が無いという点でしょうか。
幸いにもパッケージ内にDMM用のDLコードが封入されていたのでそっちで対処は出来ましたが、だったら最初からDL版で売れば良いんじゃない?っておもいません? やはり流通の横やりなのでしょうか。
DL教に改宗した身からすると、ホント勘弁してほしいです。
しかし、みなとそふとクラスでも流通の意向は汲まないといけないくらい、まだ流通って力持ってるんですかね? 『マジ恋A』はガッツリDL販売していた気がしますけれども。

最後にミソがつきましたが、作品自体は両ライターファン的に非常に嬉しい仕様でした。
もうそこに尽きるでしょう。
両氏が遺憾なくらしさを発揮していただいて、内容もボリュームあり、素材も相当量を投入しています。
これでミドルプライスとか、どういう収支計算なんだろうと心配になるレベルです。
予算を投入して良いものを作って、それが売れてまた予算が潤沢に、っていう好循環の香りを感じます。
是非ともタカヒロ氏にはこのまま突き進んでいっていただきたいものです。
珍しくビッグネームのコラボが効果的に作用した一本でした。

2019.06.26