かみのゆ 感想

前々から気にはなっていたけれど、なぜか手を出せずにいた本作です。
興味持ったきっかけが『さかしき人にみるこころ』と同じAKINOKO氏による原画でしたが、でも原画って別に面白さを担保するものじゃないからな、みたいな経験則が変に暴走して、ずっと見て見ぬふりをしておりました。
冷静に考えれば、面白さを約束はしないだけで、面白くない事が確定しているわけでは無いんですよね。
ここまでくると自分自身への呪いみたいなもので、固定観念ってやつは本当に厄介だといういい事例です。
解呪のきっかけは結局FANZAの半額セールだったので、こうなってくるといよいよリリース月に新作で買うっていうマインドが薄くなっていくなとしみじみ。

さて本作。
ほんわか系キャラゲーと見せかけて、ふたを開けてみたらわりと攻めてきている印象です。
なんだろうこの、キャラ愛を試されている感じ。
ちょっと脱線しますが、キャラクターってのはどこまでを同じキャラクターと定義できるのでしょうか?
容姿なのか言動なのか。
例えば東浩紀的に記号論に落とし込んだとして、これだけ大量のキャラクターが日々新たに生まれ消費されていく中、同じ記号で構成されたキャラクターなんてごまんといるわけです。
さらに二次創作まで視野を広げれば、いよいよ収拾がつきません。
すると普通は、コピーされたりアレンジされてもすり減ることのない、いわばキャラクター強度とでもいうべきものを高めていく方向に動きそうなものです。
一方で本作、逆にどこまでの幅をユーザーであるあなたは許容しますか? みたいな投げかけをされているような、そういう挑戦的な意思を感じます。
それがかみのゆでの「かみさま本来の姿」というギャップです。
ロリだったりお姉さんだったり、お姉さんだったりクリーチャーだったり、性格が真逆だったりちんちん生えてたり、それを一人のキャラクターに内包させたうえで、それでもあなたは彼女を同じキャラクターとして愛せますか? みたいな、そういう試されてる感。
普通にギャップのあるキャラというレベルは確実に逸脱しています。
そういうコンセプトは持ちつつも、かみのゆの女将で、あの土地に縛られているからこそわりを食っているのが藤子です。
一人だけなぜかギャップ無しのキャラですが、よくよく考えたらかみのゆの外に出られないから、っていう設定上の整合性取ってるんですね。
さて、彼女がかみのゆの外に出たらどうなるのか、それはユーザー諸兄の妄想に任せるといったところでしょうか。

元々期待していたAKINOKO氏の原画は順当に高水準です。
が、一枚絵でちょいちょい異常に胴が伸びるのは毎回気になります。
AKINOKO氏は時期によってかなり絵柄が変わりますが、本作では『さかしき人にみるこころ』の時よりさらにデフォルメ寄りになってますね。
あのシリーズも、『さかしき人にみるこころ』と『まじのコンプレックス』でもう違ってたりしますし。
ビジュアル面だけでなく、キャラ面でもかなりヒットです。
私個人的には「女子たるものオシャレしなきゃ!」「女の子はみんな甘いものが大好き」「恋に恋する女の子」みたいなきゃぴきゃぴした世界がゲロ吐くくらい苦手でして、そういうのがない世界で本当に良かった……。
「かわいい」に対する受容体が基本的に死んでいるのです。

また、演出のメリハリが効いててテンポが良いです。
通常のADVウィンドウに加え、ビジュアルノベルっぽい表示にマンガ的なセリフの演出、SDキャラのカットインも多用されて、視覚的に飽きがきません。
地味に立ち絵は輪郭線が太めになっていて、これもマンガっぽさを強めてます。
こういう媒体を跨いでる感じの遊びはわりと好きです。
ただ、なぜか立ち絵の「汗」の漫符が突然違和感ありありな感じで、ここだけ不思議。
どのキャラもこの差分の漫符部分だけ噛み合ってない感じ。

というわけで、完全に固定観念というか謎の思い込みで失敗したパターンです。
普通にキャラ萌え系として隙無く高水準にまとまっています。
結果的には食わず嫌いみたいな形でもったいなかったな、もっと早く手を付けていればよかった、という一本でした。

追記

大学生の主人公、田舎町、銭湯、かみさま……『ゆのはな』じゃん!

2020.07.23