紫影のソナーニル

スチパンシリーズ、ようやく紫までやってきました。
ついに残り本数の方が少なくなってしまったようで、桜井氏は今からでも遅くないから何年ぶりかの新作仕込んでくれてもよろしくってよ?
ん? 『緋星のバルトゥーム』がなんだって? そんなやつは知らん。


ビジュアル極まる

さて本作、ここまで4作の美味しいところ引っ張ってきた感がすごい。
雰囲気的には『赫炎のインガノック』を下敷きに、『シャルノス』と『ヴァルーシア』の気配も感じたり感じなかったり。
というか、半分くらいはインガノックのリブート版と言ってしまって差し支えないくらいの勢いありますよね、これ。
インガノックのリブート版作ってたらいろいろやりたくなって、盛り込んでいったらなんか別物になってた、的な印象。
セレナリア』は知らん。

グラフィック面がそのあたり顕著で、AKIRA氏のデザインに大石氏的な色彩センスが悪魔合体して、私が知ってるライアーソフトタイトルの中では一番美しいと言って差し支えないと思います。
いや、美しいともなにか違う、でも濃密で存在感のあるこの感じ。
これがクリッターなどの小道具はもちろん、閉鎖的で鬱屈としたインガノックと地下世界の雰囲気やらと相まって、インガノック感がさらにマシマシなんでしょうね。


複数軸で多層的に見せる

秀逸なのが、見せ方の奥行きとそのまとまりの良さです。
表と裏、外と内、今と過去みたいな対比を同時並行的に進めているのに、情報としてすっと入ってくるのが非常に巧み。
いろんな軸で世界や物語を眺めることができて、全体はすごく見えやすいです。
ただこれスチパンなんで、全体は見せつつも細かいところはふわっとさせて「よく分からねえ…」を誘発させる手口はいつも通りです。
これはもう、そういうエンタメなんで仕方ありません。
そんな絶妙なバランスのやつが桜井氏の詩的なテキストで描かれるのでなんかこう、叙事詩とか詩劇的なのを感じます。
そのへんの区分けはよくわからんですけれども。

あとおヴォイス。
野月まひるとかわしまりのの二大看板で進行とか神ってません?
それとモノローグに声ついてるのがね、ええんですよ、すごく。
まあこれはシリーズ共通なんで驚きとかはないですが、ここ要るわよ! ってところにしっかり入れてくれてるんでありがてえのと、セリフとモノローグでやっぱり演技も違うんですが、ちゃんと同じキャラの別のしゃべり方になっててはい、もうホントありがとうございます、あなた方が神です。

ついでに音楽関連。
3章あたりに差し掛かったあたりでサントラポチりました。
『彷徨う少女/リリィ・ザ・ストレンジャー』があまりに良すぎて、しばらく流し続けてました。
このハーモニカ?っぽい音色がいいんですよ。
ただ、物理メディア増やすのは面倒なんで、DL版置いといてほしかったなあ。


インガノックの話

先に「インガノックのリブート版」みたいな話をしましたが、インガノックってもしかして本作の地下世界みたいな感じだったんですかね?
本作は現実と地下世界の両面から進みましたが、これの地下世界視点のみで進行してたのがインガノックという。
もしそうなら、私の中ではいろいろとかなり腹落ちするというか、納得感がようやく得られるというか。

あ、大丈夫です、答え合わせは不要です。
核心の外側をふんわりと舐りつつ、その表層の雰囲気をなんとなく楽しむのがスチパンなので、明確な答えは必要ないのです。
それがわかってるから桜井氏も変に解説とかしてないわけですし。
「分からない」をそのまま愛すればいいのです。
何事にもいつも明確な答えと意味があるなんてのは、それこそ幻想なので。


おわりに

完成度が非常に高いスチパンでした。
ライアーソフトなのに粗削りじゃないってのが頭おかしく感じますが、この時期から急にこいつら仕事が丁寧になるんですよ。
その恩恵を受けたのかどうかは知りませんが、これはそうね、非常に良いものです。
あとはスチパンシリーズの名の通り、たまにはスチームパンクしてみたら? ってくらいでしょうか?
たまには『セレナリア』みたいに本当にスチームパンクしてみてもいいと思うのですが、さて。

なんやかんやでシリーズ中、いちばんしっくりきた一本でした。


2023.06.19