SEVEN BRIDGE 感想

Liar-Softで星空めてお氏が手がけた最後の作品である本作です。
『ファイヤーガール』も一段落した事ですし、またゲームの仕事してくれないかなぁなんて思いますが、TYPE MOONに移籍してから何年もゲーム作品は手がけてませんし、望み薄そうです。

さて本作、Liar-Softの良いところと悪いところがどちらも出ていて実に味わい深い仕上がりになっています。
まずはこの大戦中のユーラシア大陸っぽいけど、どうやら違うらしい世界観。
話が進むにつれて魔法やら何やらいろいろあったらしいことが窺えます。
このあたりの世界観や背後関係が、めてお氏の軽妙なテキストで紡ぎ出されていく心地良さは、まさにゼロ年代前半のLiar-Softならではです。
シリアスな『マスクド上海』なんていったら台無しなのでやめておきます。

一方で、途中でいつの間にやらボイスが無くなっていたり、だんだん話が駆け足になっていったり、新キャラクター出したはいいものの、特に話に深く絡んできたりせず放置したり等々。
納期やコストに追われたらしい事が窺えて、ああLiar-Softだなとしみじみ。
まあバグが無かっただけ良かったんじゃないですか、なんて心から思えたならあなたは立派なLiarユーザーです。

Liar-Softの何が好きかと思い返せば、恐らく2番目くらいにその世界観を挙げると思います(1番は今まで見た事ないものをを見せてくれるのでは、と感じさせるワクワク感です)。
しかもこの手の不思議世界観を作り慣れているだけあって設定の出し方がとことん自然なので、上等な日本酒のようにスッと情報が入ってきます。
そして気がついたら前後不覚の泥酔状態がごとく世界観にどっぷりという。
これが実に心地良いです。
このあたり下手だと、駄作にありがちなイラッとくる露骨な説明台詞等々の不快感で作品世界に浸るどころではありません。
場面転換で挿入される、これは詩?ポエム?これも情景描写であったり御伽噺っぽい雰囲気を感じさせたりで面白い演出でした。
語りがエマなのも憎いチョイス。

しかしながらそれも、4章あたりでボイスがぱたっとなくなったあたりで急に雲行きが怪しくなります。
パートボイスはこの時代のLiarにはありがちなあれなのでまあ別にいいのですが、終盤に近づくにつれて消化不良の度合いが増していくのは如何ともしがたいところ。
カサノハなんて結局最後は独白になってしまいましたし。
それが許される場面を選んでやった点だけは、最低限守るべき一線は守ったというところでしょうか。
戦闘シーンがあっさり風味になったり橋が現れるペースがあがっていったり、先述の完全に空気な新キャラや、マスコン一本足りなかったりは……まぁもういいじゃないですか。

さてここからが書きたいところ。
本作最大のインパクトは最後の最後、エンディングムービーにあります。
アダルトゲーム史上、最も素晴らしいエンディングムービーは?という議論があるとするならば、間違いなく私は本作の名前を挙げます。
端的に言えば、その後のクゥとエマのエピローグなのですが、画像だけで物語が鮮やかに伝える仕掛けが極上。
その後を語りすぎればエピローグとして蛇足ですし、かと言って時間の経過を感じさせなければラストワンカットのカタストロフに欠けます。
場面場面だけ見せて、エピソードの内容はユーザーのご想像次第、というこの仕掛けは最適解でした。
かつ、本編のストーリーを思い起こさせるRita氏のエンディング曲が後ろで流れてるもんですから、締めとしては完璧以上の仕上がりだと断言できます。
本編の終盤が駆け足だったのに、エンディングムービー専用に18枚も専用の画を用意してて、どういう進行管理とリソース分配してたんだというのはご愛嬌。
計85曲と異常なBGMの曲数(1回限りの使い回し無しの曲まであるんですぜ?)と合わせて見ても、こういう全体のバランス無視したこだわりはLiarらしいと思います。
このどうしようもなさに、Liar-Soft愛が深まる一本です。

2017.10.23