缶詰少女ノ終末世界 感想

終末です。
そう、終末ですよ。
このテーマは『終末の過ごし方』や『そして明日の世界より――』等々、偉大な先人の多いジャンルでございます。
これはこちらもそれなりに気合を入れて取り掛からねばなりませぬ。
懸念があるとすれば、情報オープンと同時に予約する程度には愛しているシルキーズプラスの前作『言の葉舞い散る夏の風鈴』が私的には不発だった事。
しかも根本的な方向性を外しての不発でした。
正直本作からも似たような香りがしておりまして。

そんな疑心暗鬼でスタートいたしました本作、やるじゃんってのが半分、予想通りだったのが半分といった具合です。

まずやるじゃんって方。
とにかくギャグのキレが素晴らしい。
八乙女さんが嶽山と主人公を変なノリに巻き込んで脱線していくお約束のパターンに外れ無しです。
嶽山が気張りすぎて若干の鬱陶しさもありますが、意味分からん偽薩摩弁やらゲイ方面の下ネタやらは勢いありますし、八乙女さんの適当に下ネタを投げ散らかして明後日の方向に話を広げていくスタイルには宇宙を感じます。
私の高校時代が大体こんなノリの会話ばかりだったので、その辺の思い出補正も込みです。
ツバキのヤズの能力を乳首で例えるくだりは、シーンのシリアスさとのギャップとセットで、神懸り的な笑いの瞬間最大風速を記録しました。

次に予想通りだった部分。
変な部活を立ち上げる学園萌え系はやっぱりダメです、趣味に合いません。
何をするのか具体的によく分からない活動にはのめり込めないのです。
何がしたいのか良く分からないまま話が進んでるんだか進んでないんだかってのはしんどい。
やってる事の実態はキャンプ部?

というわけで、個人的には軽くジャンル詐欺かな? なんて思わないでもありません。
「終末」というワードを取り扱っている、という括りで見れば終末モノなのでしょうけれど、公式ページにあるように、また、私が期待したように、主人公達が終末に立ち向かう姿っていうのはイマイチ描かれなかったかなぁという印象です。
お前、終末言いたいだけちゃうんか、と。

また、世界改変系の異能を持ち込んだもの悪手です。
どうにもならない終末という状況に対して、人々が何を思い何をするのか、っていうドラマが終末モノの醍醐味だと思っています。
そこで異能系のギミック出してしまうと、途端に終末の重みが薄れます。
異能とか魔法とかそういうの使い始めると、道理や理屈をすっ飛ばしてしまうんですよね。
追い詰められた状況と、それが解決した状況がワープでつながってしまう。
もちろん、終末という状況に対する精神的な克服というのとは全く別の次元で。

しかし、そのあたりの設定の出し方は非常に上手いなと感じました。
竜生九子にまつわる方面の話を、烏森さんとツバキの裏番組で動かしたのは特に。
ただし、設定画面のツバキのボイス設定はいただけません。
こんなん、ツバキの正体に何かありますよって言ってるようなもんじゃありませんか。
タイトル画面にもいませんし。
わりとよくあるポカなので、皆さん気をつけてください。

設定の出し方でいえば、導入の意味不明感は素晴らしかったです。
コンビニのイートインで缶詰を食べ、夕立の中傘もささずに立ち去る女子高生を見て、感動に打ち震える主人公というカオス。
過度に設定の説明を盛り込まないので、世界観についてよく分からないままに、よく分からない場面が進行していくという、こういう状況が私はたまらなく好きなのです。

説明しすぎる導入はホント苦痛でしかありません。
お前ら、何で今日に限ってそんな今更な事いちいち確認してんの? ってなりません? キバヤシ全盛の週刊少年マガジン的な。

ショックだった事が1点。
そうか、ハルヒってもう古典扱いなんだっていう。
他にもいろいろ終末モノの作品が、媒体問わず出てきますが、やっぱり変に伏字とか無いほうがいいなと再認識。
変に『北○の拳』みたいな伏字されると、知らない作品の場合は俺知ってるんだぜ? 感が鼻につきますし、かと言って知ってる作品ばかりだと今更感で居たたまれない気持ちになります。
どっちにしろ誰も幸せにならないという。
あと、プレッパーズ部員のメルカリ信仰がすごい。

もっと内容にも触れて、そうそう、そうだよねをやりたい気持ちがある一方、そこで変に時間使われてもテンポ悪くて嫌だなとの思いもあり、更紗が作中でしている紹介くらいが過不足なくて良い感じかと思います。
作品から派生して別の作品に興味がつながるのって素敵です。
まぁ、どんな終末が来ようとも、私が村上春樹を読む日は来ないでしょうけれど。

個人的に八乙女さんはツボなんですけど、まさかアナル処女だけ奪って終わるとは思いませんでしたよ。
おいヒロイン、それでいいのか。
八乙女さんに限らず、ヒロインとどうこうしようというのは、ライターの渡辺氏、あまり考えておられないようで。
これくらい割り切ってくださるなら、もう文句は無いです。
だからでしょうか。
グラフィックに不安定さを感じました。
特に原画。
始まっていきなり嶽山の立ち絵になんか違和感あるなと感じていたら、地の文で自虐っぽい言及があったり、エロシーンでへそからチンコが生えていたり、胴体がダックスフンドテイストだったり、等々。
まぁ、こっちもグラフィック目当てで買ってるわけじゃないんで、別にいいっちゃいいんですけれど。
気が付いた事は指摘せずにいられない姑体質なのです。

でも、これで個別ルートに力入れて本筋なぁなぁだったら、本格的に量産型変な部活立ち上げる学園萌え系になっていた可能性もあったわけで、それを考えれば全然OKです。

期待したものとは違いましたが、期待していなかったところで面白さが感じられ、総合的にはよかったと思います。
八乙女さんが嶽山と主人公を引きずって、延々と脱線し続けるアペンドディスクとかあったら、そこそこ金を積んででも手に入れたいです。

本作が、シルキーズプラスがいつもやってる「A5和牛」とか「WASABI」とかのどこに入るのかは知りませんが、こういう方向性を模索するのであれば、それはそれで応援してもいいかなと思える一本でした。

2019.05.05