FOLKLORE JAM 感想

また懐かしいものを引っ張り出してきたものです。
まあDL版なので、厳密には引っ張り出したわけでは無いのですけれども。
確かWILLブランド10本1万円セールとかで買っといたやつです。
パッケージは廉価版のトールケースが押し入れの段ボールのどれかに入っているはずですが、探す気は起きません……。
前にプレイしたのは学生時代、まだゲーム屋でバイトしてた頃です。
プレイしたこと自体は覚えていましたが、びっくりするくらい内容を覚えておらずで、細かいところはもちろん、大筋の展開すら完全に記憶から吹き飛んでいました。
実質2回目の初回プレイ、みたいな感じ。
逆に考えれば、10年弱寝かせることで初回プレイ気分が蘇るってのはある意味これ朗報ですね。

さて本作、振り返ってみれば『FOLKLORE JAM』というネーミングが実に秀逸です。
作中では都市伝説という表現をしていますが、話のオチというか核心というか、その部分はfolkloreの原意に近いという点でもそうですし、jamというのがまたクリティカル。
jamをネット辞書で引いてみれば、意味としては「①(果実などの)ジャム、②愉快なもの、③詰め込む、等」みたいな感じ。
①は置いといて、残りはまさにその通りです。
特にjam sessionのjamがドンピシャなニュアンスかと思います。
作品の構成的に、各ヒロインルートが民間伝承をベースにした都市伝説にまつわる事件をピックアップしていて、しかもそれぞれが「霊的超常現象」「サスペンス」「タイムトラベル(サイエンス要素が無いのでSFとは呼びたくない)」で味付けをしてありますので、詰め込んだとか、即興的な組み合わせ、みたいなイメージがまさにそれなのです。
しかしながら、題材の組み合わせ自体はそこそこ親和性があるので、過去に全くなかった組み合わせというわけではもちろんありません。
そういった他との差別化は、やはり我らが丸戸史明氏のテキストライティングなわけです。
氏のキャリア的にはかなり初期の作品にあたりますが、独特の軽妙さはこのころから健在で、スルスルっと情報が入ってくるのはもちろん、キャラが多いわりにそれぞれがしっかり役割を果たして死にキャラを生まない手腕もさすが。
ただ、若干の単語の不統一があったり、ギャグが苦しかったりというのは若さゆえか、サブとの連携不足か。
今だったら丸戸氏のネームバリューでサブの方が合わせてくる、プロデューサーがサブ使わなくて済むように納期設定する、とかしそうです(またこっちの業界で書いてくれるのであれば……)。
あとは、企画屋の中で作業どう振り分けているのかとか全く分かりませんが。

ヒロインのデザインが頭身高くてわりと好みです。
が、それ以上に私服のセンスが非常に印象的。
古都の巨大企業グループ社長令嬢らしからぬパンクさが特に。
まあ、令嬢らしくってことでいかにもそれらしい恰好されても、それはそれで多分うへぇってなっちゃんですけど。
ですが、基本的に無駄な設定をしない丸戸氏です。
古都の社長令嬢という設定も、話の根幹に神応寺グループの成り立ちが絡んできますから必然性がありますし、それぞれの設定、伏線が噛み合って奥行きある世界観が構成されています。
しかし、デザイン自体にはあまり拘らないらしいのも丸戸氏で、だからこの私服センスってのは100%原画・デザイン担当の趣味なんでしょうね。
なにげにテキストではそのあたり、服装への言及ってありませんし。

今さらですが、ヒロインメインのキャラ萌え系作品ではないです。
むしろ、全体の構成のためにヒロインたちは犠牲になってると言っていいくらい。
各ヒロインルートだと、話の核心には結局触れずじまいで、なあなあのまま終わってしまいます。
ヒロインにフォーカスすると、そこがどうしようもなくスッキリしないところです。
本作が丸戸氏の他タイトルに比べて、どうにも名前が挙がりにくいのはそのあたりが影響してなのかもしれません。
かといって、じゃあ全体の流れを共通化して、途中途中とラストで分岐入れて各ヒロインルート感出そうとか、そういうことしたら多分台無しなんですよね。
冒頭で述べたjamな感じが恐らく死にます。
そこらへんの舵取りが痛し痒しだったんじゃないかなぁという邪推です。
ただし、全体ありきでヒロインルートとかおまけでしょって発想で行くと、これしかないな! という構成ではあるので、私個人的にはこっちで大正解だったと思います。
一粒で何度も美味しいです。

そういえばHERMITも『世界で一番NGな恋』以来、沈黙が長いです。
ブランド自体が「丸戸氏がウィルプラスで作るとき専用」みたいな位置づけになってるので、氏がこっちの業界に戻ってきて、かつウィルプラスがオファーして、という条件が揃わない限り動くことはないのでしょう。
そういう意味では「HERMIT」というブランド名が非常に皮肉めいてますね。
発足当初、特にそういう意図があったわけではないだろうだけに。
ここが名前の通り隠遁生活を続けてくれているうちに、何故かまだ未プレイの『ままらぶ』あたりも片づけておきたいところです。
やっぱり押し入れを捜索するのは面倒なのでDL版が望ましいのですが、何故か本作以外DL版を出してくれないHERMITの不思議。

結局丸戸か! と言われれば、まあそうですねと答えざるを得ません。
「丸戸史明」というネームバリューだけで嬉しくなるよう、長い年月で脳が調教されてしまっているのです。
いえ、実際によく練られていると思いますよ?
しっかり構成されて、単なる学園変な部活モノとは一線を画するクオリティです。
ただ私の中のバイアスがきつすぎて、もはや客観的な目で認識することができないだけで。
そういう事あるよね、仕方ないねと言うしかない一本です。

2020.01.01