積みゲー賽の河原



星継駅擾乱譚

我らがRail-Soft、待望の第5弾です。当初はDL版のみで、パッケージを揃えたい派の人間としては非常に悩ましいところでしたが、予想通りパッケージ版で出ました。厳密には『年代史』のおまけですけれども、待った甲斐がありました。(情熱が足りないとも言います)やはり作る側としてはDL版のほうが美味しいのでしょう在庫無し、中古無し、パッケージ代無し、流通のマージン無しと、メリットだらけです。パッケージ派としては悲しい限りです。

いつも何らかの形で「境界」の表象が作中の中心的な位置に置かれるRail作品ですが、本作では「駅」がその役割を担っています。駅は物流の中継地点でありますから、何かがやってきてどこかへ去っていく、異なる場所のモノや文化を衝突させやすい場所です。加えて、空間的にも実に上手いこと世界を対比させ、例えば表側の駅に対する「裏っ側」、地上の駅に対する地下世界「河の下」、同じ地上でも更に上方「上の駅」、これでもかと世界の対比を詰め込み、その対比に「境界」を生み出しています。例えば、文化人類学なんかは、異なる文化同士を比較してその差異、もしくは共通点なんかから人類について考えようぜっていう学問ですから(ものすごく乱暴な説明で申し訳ありません)、まさにこれです。『花散峪山人考』の時も、文化人類学やら民俗学やらの概念がかなりモチーフになっていましたし。希氏の趣味かどうかは知りませんけれども、他とは違うバックボーンだったり方法論持ってる人は当然そのアウトプットも変わってきます。他には無い新鮮さってとても大切です。極端な話、一番魅力的な情報というのはまだ知らない情報ですから。だからこそニュースや新聞が商売になりますし、創作物には生みの苦しみが伴うわけです。

毎度の事ながら、適当感というかデタラメ感に満ち満ちており、まことにSF(少し不思議)です。ただし本作では、いつものような「そうなるもんはなるんだからもういいじゃない」みたいな投げっ放しジャーマンではなく、呪術なんていう怪奇技術体系が存在しており、なんとなく説明だけはしようとした感があります。これまでの、水が上から下に流れる理由について説明は不要、みたいな態度が少し軟化したと取れないこともないです。テキスト、シナリオにユーザーへの歩み寄りが多少見られる一方で(いや私はいつもの大好きですけれども)、グラフィック面で大分「らしさ」を出しています。濃いというか独自路線というか、ライアーもレイルも、毎度毎度どこからともなく強烈なの引っ張ってきます。本作も例に漏れず、流行の絵柄と正面衝突せんばかりの勢いです。これがだんだん、地方の名物珍味よろしく、クセになってくるから怖いです。

現時点(2015年6月24日現在)で3作出ている『星継駅』シリーズの1作目が本作なわけですが、かなり意図的に導入編な色を強く押し出している印象を受けます。先述の通りさまざまな世界が交錯する「駅」を、逃亡劇という形で上手いこと紹介して回っています。このシリーズはどうしても駅の世界観が肝になるので、さらっとやってますけど結構重要です。またこの逃亡という行為の副産物として、全体のテンポが希氏のテキストにしては非常に良くなっており、途中でお腹いっぱいになりにくく仕上がっています。DL版3800円という相変わらずの商売気の無い価格設定も、全体の尺の短縮に一役買っています。取っ付きやすい希テキストとはこれ如何に、といった具合ですが、Railデビューには丁度いい一本だと思います。