屋上の百合霊さん フルコーラス

百合というジャンルについて、我ながら著しく知見が不足しております。
学生の頃に『その花びらにくちづけを』のシリーズをプレゼンしてきた友人をガン無視した時点で、百合に対する理解が10年超に渡る停滞に突入してしまいました。
おかげで、今まで消費した一番百合っぽいコンテンツが『超熱帯夜orgy』とか、そういう事態に陥るわけです。
黒咲練導はとても良いんですよ。
次点で『ぱらいぞ』とか『オッドマン11』とか。
道満晴明も良いんですね。
あれを百合というかどうかは知りませんけれども。
とりあえず、エロ漫画雑誌に載ってるエロくないギャグっぽい枠のやつが好きなのです。
最近だと『青春リビドー山』の単行本とか、楽しみすぎて鼻血吹きそうですよ。


あっさりしてるけどノーマルではない

位置原光Zの話はさておき本作。
この明後日の方向に突き抜けていかない理性的な雰囲気は、やはり睦月たたらラインという感じ。
丁寧な作りのLiar-Softとかいう自己矛盾に近い何かです。
毎度毎度、どこからか個性が突き抜けた原画を発掘してくるLiar-Softですが、今回Peg氏のグラフィックは珍しくクセのないあっさりテイスト。
と見せかけて、アダルトゲーム業界内で比較すると、これはこれで他に似たやつがあまり思い浮かばないという点で非常に個性的ではあります。
しいて言えば、10代後半の女の子が読んでそうな漫画っぽい?
そういう意味ではヒロインたちと等身大のリアル感なのかもしれません。

よくよく見れば、企画原案は睦月氏じゃないんですね。
とい天津氏の名前は初めてみましたが、どうやら『サフィズムの舷窓』の企画も手がけられていたようで、つまりこういうジャンルが好きなお方ってことなのでしょう。
ということは、そもそも睦月氏メインで動いてたラインじゃないってことで?
睦月氏も『ぼーん・ふりーくす!』とか作っちゃうくらいにはぶっ飛んでますので、まあ、ほら……。
業界標準と比べたら十分ぶっ飛んでますが、Liar-Soft内では理性的なので、もうそれでいいじゃないですか。


作品構造の妙

百合というジャンルがそうなのか、本作特有のものなのか分かりませんが、見せ方がすんごい多面的で驚きです。
ヒロインとヒロインのカップルという都合上、基本的に私の視点は三人称視点がメインになります。
結奈の視点をそこに重ねつつ、当人や相手の一人称や二人称の視点もガンガン盛り込んでいくので、何が起こっていてどういう感情を抱いているのかめっちゃスムーズに情報が入ってきます。

またこれも新体験だったのですが、言わば本作、7カップル同時進行みたいなことするじゃないですか。
終盤に一気に動くメインの2カップルを除いたとしても、それでもなお5カップル同時です。
これをやろうとしたら、情報が渋滞した瞬間終わりなんですよね。
だから上記の視点の切り替えは必要に迫られてやっている部分も結構あると思います。

加えて巧みなのがストーリーを開放する順序。
メインストーリーでその期間にざっくり何が起こっているのか提示したのちに各カップルの個別ストーリーで詳細を見せていく流れが、ちょうど予習復習的な反復になってしっかり脳に刻まれます。
メインストーリーが終わった後に解放のアナザーストーリーもダメ押し的で良いです。
これを最初から全部並べてプレイできるようにしてたら絶対ダレるわ話飛ぶわで残念なことになってたと思います。
アナザー含めて全部通して最初からやり直すのは、全部終わらせてからのお楽しみだぜ!

メイン画面のUIを手帳型にしたのもシャレオツで素敵。
綺麗に収まりました。
こういう個別にイベント閲覧できるモード大好きです。


ようやく理解の入り口に立つ

百合っていうのはヒロイン単体で見るものではなくカップルで感じるものなのだ、的なことを昔友人に言われたんです。
その話を聞き『さかしき人にみるこころ』のシリーズみたいなヒロイン一人タイプのゲームを想像して、あー分かる分かる、みたいな生返事をしたやつがいたんですね。
まあ私なんですけど。
ヒロイン一人のゲームって、一人の主人公(ちんこ)と一人のヒロインで特別感あると思うんですよ。
複数のヒロインの数だけ関係が発生するゲームと比較すると。
そういう認識でいました。

今回、彼が言っていたことがようやく理解できました。
ヒロイン一人のゲームとはまた違う味わいです。
確かに、主人公(ちんこ)もキャラが立っていて唯一無二のカップル感が良いゲームはあります。
それこそ先述の『さかしき人にみるこころ』なんかはそのタイプです。
とはいえ、主人公はあくまでちんこなので、ヒロインではありません。

百合の場合、どっちもヒロインなんです。
なんと言えばいいのか言葉がうまく見つかりませんが、でも二人で一つみたいなのとはニュアンスが若干違います。
二人セットにすると単品と単品がより際立つというか、そんな感じです。
それぞれのカップルがいろんな関係性で作られてるのも、理解を深めるのに効果的でした。
そうか、これが百合か。


理多からのRita神

もはやRita神の指定席みたいになってるLiar-SoftタイトルのOP/EDですが、今回はもう一歩踏み込んできました。
というか、「身分違いの恋」組の陽香と愛来が良すぎました。
あんまり物事深く考えず青春一直線で突っ走る陽香が普通に主人公(ちんこ)っぽいですし、愛来は愛来で男前すぎますし、私が従来持ってた儚くて秘めやかな『マリア様がみてる』的な百合のイメージぶっ壊れました。
ロックにぐいぐい行く陽香を見せたのちに、愛来側を見せていく構成も抜群です。

極めつけが『AA愛!』で、これで勝利が確定しました。
これは強すぎます。
本作における私の瞬間最大風速はここでした。
だから理多氏起用なんですね。
Rita神の作詞はいつも作品要素やイメージを絶妙に反映させて素晴らしいのですが、『AA愛!』はそれを陽香というキャラ視点で仕上げてくるもんですから、やっぱすげえですこの人。
絶対音源押さえておきたいです。


おわりに

『エヴァーメイデン 』もそろそろ出るし、その前にこっちやっとこうかな~くらいのノリでしたが、なんでこうやればやるほど新しい顔を見せてくれるんですかねLiar-Softは。
百合はよう分らんからとか言ってちゃダメですねやっぱり。
ただ、その理屈でいくと『LITTLE LITTLE ELECTION』とかも紐解いていかないといけなくなるんです。
ロリは、ロリは……。

食わず嫌いもたいがいにせいよ、もったいないわよという一本でした。


追記

元々本作、『平グモちゃん』同様、2012年にもなってパートボイスとか楽しいことしてまして、私がプレイしたのは2018年発売のフルボイス版になります。
で、フルボイス版の紹介ページ見てびっくりしたのですが、『AA愛!』のシーン、旧版ではオフボーカル版しか流れなかったみたいで……。
これはもうどう考えても頭おかしいです、不具合といってしまって差し支えありません。
そういうところホントLiar-Softで、どうしてこの人たちはいつもこう詰めが甘いのか……。
というか、フルコーラスってそういう意味!?


2021.12.12