初心者向けタイトルとは何か

「初心者向けにオススメのタイトル」みたいなやつがTwitterのアダルトPCゲーム界隈でちょいちょい話題になります。
この辺眺めていて、私なりに思うところがありましたので、なんとなくお気持ちの表明をしようと考えたわけです。

初心者って誰?

この初心者という言葉が非常に曲者でして、アダルトPCゲームに関して「初心者」と一括りに出来るユーザー層って本当に存在するのかなあと思います。
少なくとも人生で初めて触れる二次元エンターテイメントがアダルトPCゲームだ、なんて人が極々レアケースでしょう。
巨大戦闘ロボットが好きな人、きらら系みたいなゆるふわ4コマが好きな人、ハードめなSFが好きな人、青春スポーツモノが好きな人、等々々。
アニメなりマンガなり、何かしら楽しんだ経験はあるはずで、それによって何らかの好みが醸成されているはずなのです。
そんな十人十色のバックボーンを持つ人たちを「アダルトPCゲームはあまりプレイしたことが無い」という共通項だけで乱暴に括ってオススメした作品は、果たしてどれだけ刺さるのか、そういう疑問があります。

実態としてオススメされているもの

さてでは実態として、同じくTwitter界隈で実際どういった作品が「初心者」にオススメされているのか。
なんとなく2パターンあるように見えます。
一つは、大雑把にいえば無難(そう)なやつを挙げるケース。
わりと最近の、とりあえずヒロインが可愛くて、なんとなく不幸だったり理不尽な展開もなく話がまとまっているような、学園萌え系に代表されるようなやつ。
そのあたりは、実際には私がプレイしたことないやつの方が多かったりするので、厳密には何とも言えませんが。
ある意味で私はそういう作品群から脱落した人間です。
だから、10年20年とアダルトPCゲームにどっぷりハマっていながら、今もまだ学園萌え系とかそういうのを新鮮な気持ちで楽しめる人の方こそむしろ上級者であり、その辺のタイトルこそ一周回って上級者向けに見えたりもします。
そしてもう一つが、とにかく自分が好きなヤツを挙げるケース。
もはや相手の都合はそっちのけです。
コミュニケーションとしては恐らく失敗しているのですが、やり取りをする個人同士が同じ方向性の趣味の持ち主であるというコンセンサスが取れている場合に限っては有効です。
ただそうすると、オススメしている相手は「同好の士」となるべきなので、不特定多数の「初心者」相手にはどのみち不適切でしょう。

外さないオススメのされかた

まるでオススメをする側が悪いかのような書き方をしましたが、「初心者」の側にも問題はあると思います。
例えば、ある程度雑談をする能力がある人であれば、相手の嗜好から共通の話題を引き出すという手法を無意識に使います。
その際、導入時の尋ね方が「何かオススメある?」だったりします。
これは目的が「その場の会話を盛り上げる事」なので、共通の話題にさえなればタイトルは何でもいいのです。
しかしここで問題にする「初心者」の目的は、多分会話のネタ探しではないですよね?
実際になんらかの手がかりや候補タイトルが欲しいわけです。
確度の高いオススメが本当に欲しいなら、媒体問わず過去に好きだった作品を3~5本くらい挙げてみればどうでしょうか?
それらのどういうところが好きか、どのキャラが好きか、なんて情報もあるとベターでしょう。
少なくともノーヒントよりは建設的な進め方が出来るかと思います。
……まあ、オススメする側が他媒体に対する無知を露呈することになるかもしれませんが。

強いて「初心者」を定義するならば

冒頭で、アダルトPCゲームにおいて「初心者」なる人たちを定義すること自体そもそも不適当なのではないか、と述べましたが、それでも強いて極めて乱暴に定義するとしたら「消費本数の少ない人」とかになるのでしょうか。
だとすれば「初心者にオススメ」というか「これだけやっとけば基本は押さえているよね」みたいなリストは作成できるかもしれません。
「初心者向け」ではなく「脱初心者のために消費すべきタイトル」みたいな感じ。
対象が何タイトルになるのか具体的な数字は皆目見当もつきませんが、「この200本のうち50本以上やってれば脱・初心者」とか。
ある程度ジャンルの隆盛、過去の有名作品や時代ごとの色を把握していくという意味では「アダルトPCゲーム史概論」みたいな考え方に近づきますね。
まあ仮にそんなリストを作ったとしても「へぇ~、このリストによればエロゲ歴20年超で1000本近くプレイしてる俺も初心者ってことね」みたいな非常に鬱陶しい連中とか、初心者向けのタイトルをオススメすることで、自分はすでに初心者ではないと主張したい連中とか、また別の面倒事が発生するのは火を見るより明らかなので、少なくとも当サイトでは絶対にやりません。

おしまいの手前に

つまり何が言いたかったかというと、オススメってのはもっとジャンルとか要素とセットでされるべきであって、初心者に共通して刺さる作品なんてものは無いんじゃね?って話です。
あとはそもそもこの話題が、相手の作品語りを促すためのものか、タイトルを上げさせて「それはやった、それもやった」を繰り返すことで「いろいろ知ってる俺すげえだろ?」とか「え、もしかして初心者の俺より知らないの?」っていうマウント取りたいだけとか、字面通りの意味でない可能性も否定はできませんが。
と、ここまで書いて一点だけ思い当たったのは、クソゲーを避けるという点において、初心者向けにオススメする意味はもしかしたらあるかもしれない、ということ。
こればかりはある程度慣れがないと見分けがつきません。
知識で避けるか、直感で判断できるかは人によりますが。
それに、何百本やろうと自分の好みを判断できない人はいるわけですし。
この視点に立つのであれば、作るべきは「やるべきリスト」ではなく「手を出してはいけないリスト」なのかもしれません。
それなら作れないこともなさそうですが、うーん……。

おしまいに

私は岡田斗司夫的な「自分の好きなものを自分で決められる」って発想が好きなので、人のオススメなんて聞かずに自分の直感だけを信じてしこたま爆死しながら自分の嗅覚を養ってほしい、と考えてるのが正直なところです。
大事なのは自分の嗜好が自分自身で把握できているかどうか。
みんなの評判が大事で、みんなが好きっていうから自分も好き! なんて発想なら、そもそもアダルトPCゲームなんて日陰の趣味に走らず、世間の皆様と一緒に今年ブレイクのタレントがどうの、春ドラマがどうの言っていればいいのです。
せっかく世間様に背を向けてこんな趣味を選んだわけですから、あとはまわりなど気にせず突き進めばよろしい。
涙の数だけ強くなれます、きっと(クソゲー・地雷的な意味で)。

2020.02.22