転売ヤーを殴る前に考えたいこと
ジャンル問わずなにかしら商売をすると、否が応でも「神の見えざる手」の存在を感じることがしばしばあります。
市場原理すげえな、アダムスミスの言葉のセンスすげえなと、私のような小市民はただただ畏敬の念を抱くばかりです。
仕事でも株投資でも、まあまあそんな感じなのですが、最近「ん?」となるのが彼ら、転売ヤーたちへの風当たり。
世の中で盛大に叩かれている彼らについて、全面的に絶対悪だと糾弾することが、どうにも私はできません。
もちろん、手口によっては「そりゃあかんわ……」てのもありますけれど「でもちょっと待てよ」と思うケースも多々ありまして、そのあたり一回整理してみようかと思った次第でございます。
ちなみに、今回はコミケのようなイベントでのケースを想定しています。
転売ヤーの悪事について
転売ヤーたちが叩かれる主要因は2点。
「買占め」と「価格の吊り上げ」です。
転売ヤーによる大量仕入れでグッズは品薄、それでも何とか入手できないかとオークションサイト等を覗けば定価の数倍数十倍の価格で販売されている光景にファンたちは絶句。
大きなイベントや期間限定、数量限定のグッズが出回るたびにネット上では阿鼻叫喚とともに、転売ヤーへの怨嗟の声を聴くことができます。
確かに、これはとんでもないヤツらです。
転売ヤーだってつらいよ
そもそもですが、そんな美味しい商売がそうそう成り立つのでしょうか?
冒頭で触れた「神の見えざる手」、市場原理とはすなわち競争原理でもあります。
美味しい話にはパクリ後追いの競合が発生するのが世の常です。
冷静に考えるならば何かあるはず。
まず不思議なのが、そんな儲かるなら何故みんなもっとやらないのでしょうか?
善良な人間であれば転売なんて悪事に手を染められるはずがない! みたいなピュアな意見はまあ置いといてください。
転売ヤーへの怒りを抑えて冷静に考えればみんな分かるはずですが、転売ヤー側もそれなりにリスク取って活動しているわけです。
例えば在庫。
大量購入して、それはホントに販売しきれるのか。
いくら高く出品しようと、仕入れ分回収できなければ無意味です。
公式が突然「後日追加で通販します!」とか言い出すのも怖いですね。
加えて税金。
ネットオークションを利用する場合、ガッツリ履歴が残ってしまいますので、税務署に嗅ぎつけられるリスクがあります。
転売の収益は雑所得でしょうか。
雑所得は確か税率高いんですよね……。
きっちりレシートや領収書が無いと仕入れの証明もできませんから、最悪利益ではなく売上金額に課税される恐れもあります。
それを考えれば、オークションの暴利とも思える価格設定も、まあそれくらい取らないとなと納得できてしまう部分が個人的にはあったりなかったり。
まあ、それだけ苦労してるんだから許してやれよ、ってのは全く理屈が通りませんが。
誰が転売ヤーを生かしている?
転売ヤーをやっつけるためには、そもそも彼らがなぜ発生するのか考えるのが利口かと思います。
ネット上で攻撃的な言葉を並べるだけでは何の解決も期待できないばかりか、逆に発言したあなたの品性を疑われる事態にも発展しかねません。
転売ヤーへの需要はどこにあるのか、誰が彼らから買っているのか。
極論すれば、買う人がいなくなれば転売ヤーは容易に駆逐可能なのです。
ではなぜそうならないのか。
ネット上の怨嗟の声を拾っていると、さも転売ヤーが買い占めたグッズを買いそびれたファンたちへ高値で売りつけているような錯覚を覚えますが、実のところ転売ヤーのおかげで得をしているユーザーもいるのではないかと思います。
例えば、どうしても欲しいグッズが一点あるが、地方に住んでいるせいで交通費だけでえらい金額になってしまう人。
恐らく転売ヤーから買った方が安くつきます。
彼らに、私は個人的に転売ヤーの存在が許せないから、その一点のためだけであろうと高い交通費を払って現地に行きなさいと強要するのは現実的でしょうか?
また、販売する側にも大いに問題があります。
根本的な話、公式が全部通販すればそれで話は終わるのです。
数量限定とか会場限定とかやるから話がややこしくなるわけで。
確かに限定品に弱いのはオタクの悲しい性ですが、それを仕方ないとするなら今度は住む地域や仕事の都合で会場に行ける人がずるいという話になりませんか?
そっちの都合を加味すれば、個人的には金さえ出せば手に入る方が平等に思えます。
それに全ユーザーに行き届くよう無限に数を用意しろというのも、これまた現実的ではありません。
メーカーだって慈善事業でやってるわけではありませんから、グッズを作るならしっかり儲けたいわけです。
そこで大事なのは、計画通り「売り切る」こと。
最悪は余らせること。
持ち帰る輸送費に持って帰った後保管する場所、在庫への課税を考えれば当然の話です。
100%の邪推ですが、もしかするとメーカー的には大量に買ってくれる転売ヤーの方がありがたい、なんて本音すらあるのでは?
本気で転売ヤーを駆逐するなら
理想を言うのであれば、メーカーがしっかり公式通販をして、事前予約も入念に告知、余剰分はヤフオクなりメルカリなりで公式がアカウント作って販売してやることです。
買う側も買う側でしっかり予約できるものはするべきで、当日どっかのタイミングで買えばいいやみたいな発想のやつは文句言っちゃいけません。
特にメーカー側は、環境も整えてずに「転売ヤーに心を痛めています」とか「良心は無いのですか?」みたいなコメント出してはいけない。
ある種の共犯関係にあるくせに、自分は悪くないですよみたいな顔をさせてはいけない。
おわりに
安全な場所から一方的に感情的な攻撃を加えるのはとても気持ちがいいものです。
とはいえ、怒りの源を断たないことには永遠に怒りに振り回されるだけなので、たまには冷静になるべきです。
また、今回は取り上げていませんが、ライブのWEB予約や、組織的なマジの買占め等、明らかに一線を越えているケースも多々あるので、そちらは明確にルールで縛るべきだと思います。
究極的には全数受注販売で、メーカーは確実に利益を出せて、ユーザーは確実にグッズを手に入れることができます。
クラウドファンディングがもっと上手く機能すれば可能性ありますが、なかなか上手くいっていないようで。
むしろこれからは、ファンの方からメーカー側に「こんだけ数量と金集められるからこれ作ってくれよ!」みたいなパターンも出てくるのでは?
まあ、そんな感じで。
Twitterで「転売するな」「買うな」とわめくばかりでは何も解決しませんよという、それが言いたいだけの話でした。