千の刃濤、桃花染の皇姫 感想

我らが優等生、オーガストでございます。
思い返せば最後にプレイしたのは『FORTUNE ARTERIAL』でしたから、私にとってはかれこれ10年ぶり近いオーガスト作品になります。
非学園モノのダークファンタジーな香り!と喜び勇んで購入した『穢翼のユースティア』はガッツリ積んでおります。
ただ積むだけに飽き足らず、引越し荷物圧縮のため未開封のシュリンクを剥がしたそばからパッケージを潰してダンボールに詰め込むという悪魔の所業も今は懐かし。

さて本作、素材作りや組み立てはすごく丁寧にやっているのに根本の設定がどうもちぐはぐで、無理矢理つなげた三題噺みないな居心地の悪さを感じる部分がちらほらありました。
例えば何故滸はアイドルなのか。
脈絡無さ過ぎる上に、設定がストーリー上で必須の要素になってくるかというとそんな事もなく、正直何がしたかったのか分かりません。
むしろ「とりあえずアイドルいっとく?」みたいな安直さを感じてマイナスにすらなりえます。
ああ、そんなに考えてるわけじゃないんだな、と。
学園という舞台を無理矢理持ち込んだのも蛇足に感じます。
全てのヒロインが一堂に会する場が必要だったのは理解しますが、もっと他にありません?確かに目論見通りの機能は果たしましたが、必然性というか説得力というか、そういうのは感じられませんでした。
皇帝や役所の要職、統治軍のトップを学園に通わせる力技を良しとするなら、大抵のコミュニティで代替が可能だと思います。
そもそも学園に通いながら並行して処理できる程度の仕事なんですねその辺のお仕事って。

基本的に本作、組織軽視が目立ちます。
上記の行政舐めすぎな学園コミュニティもそうですが、奉刀会サイドも大概です。
アイドル、学生、会長代行と、滸は何足の草鞋を履くおつもりやら。
彼女を補佐する実務処理部門や中間管理職的存在も感じられず、それが組織の薄っぺらさを強めます。
統治軍は統治軍で、まさかの親族経営状態です。
万人に平等にチャンスを与えるべく民主化を唱える当のご本人が、親の意向で統治軍要職に就いているのは何かの皮肉でしょうか。
それに少なくとも私が軍人であれば、命の危険が伴う軍事行動で未成年の指揮下には入りたくありません。
彼女曰く、命令には従うよう訓練は出来ているそうですが、となると下手すれば彼女はミドルティーンあたりの頃から軍務に就いていた事になります。
大丈夫かこの軍。

このあたりは美「少女」に固執した歪のしわ寄せだと思います。
真面目なクーデターなんて少年少女の仕事ではないのです。
もっと小規模なクーデターであれば話はシンプルに済むかもしれませんが、国家レベルのクーデターを起こすとなると話は複雑にならざるを得ません。
魔王を倒せば片が付く勇者様とは違うのです。
もっと緻密で姑息な大人達の仕事になります。
そのあたりをすっ飛ばしてしまうには深入りをしすぎ、語り尽くすには材料がまるで足りないという、中途半端なシリアスが裏目に出ています。

ストーリーを一本道の途中下車方式にしたのは正解でした。
ルート分岐以前に明確に主人公達の目的が提示されてしまっているので、これで同時並列タイプの個別ルート構成にすると、ルート間の温度差や整合性が悲惨な事になります。
かといって本筋のストーリー全てを共通にして最後だけ個別、とかやるとまた茶番っぽくなってしまいます。
もっとも、温度差の方は結局どうにも出来ませんでしたが。
ここでも滸はあまりに不遇で、クーデターについてはエピローグでその成功が数行で語られるのみという衝撃の結末。
え、君ら何のために戦ってましたっけ?
また、個別ルートは非常に薄いです。
本編ではルート分岐後にエロシーンが一回あってそのままエンディングという、もはやヒロインの存在は必要だったのかと疑わしい。
破瓜の血の滲み方についてこだわりの描写を感じましたが、それだけです。
一応、ヒロインのエンディングを見ると、おまけで番外編がオープンになるものの、エロシーン偏重のちょっとしたSS程度の無いようなので、結局イマイチ食い足りません。

念のためフォローするならば、朱璃ルートはメインルートなだけあって気合入ってました。
構造上、その他のルートは全てストーリー上は朱璃のおまけといっても過言ではありませんので、その犠牲を無駄にしない程度の作り込みはありました。
惜しむらくはおまけの後日談であっさり緋彌之命を再出演させた事でしょうか。
未来を朱璃と宗仁に託したあの時の彼女達の覚悟、決意みたいなものが全て茶番だったように感じられてしまいました。

結論としては物足りません。
それなりに期待をしていたため、その落差で私が勝手にガッカリしているだけというのは否めませんが、それにしても中途半端だったように思います。
もっとハードにクーデターを描くか、そっちはおまけにして萌え系で片付けるか、どちらかに振り切れれば幸せだったと思います。
政治やイデオロギーの話をすると碌な事にならないという好例でしょうか。

先にも述べましたが、美少女に縛られすぎたのです。
ヒロインが学園卒業して数年そこらで大統領やら議員やら真面目にやってるもんですから、1周してギャグになってます。
「主要人物は少年少女」という縛りを外せば、もっと楽に無難に説得力のある展開が出来たのではないかと思います。
仕事は大変真面目で丁寧でしたが、破天荒さに欠けた一本でした。

2016.11.23