霞外籠逗留記 感想

Leafがビジュアルノベルを世に出してからもう10年以上、この形態はほとんどそのままの形で今日まで使われています。
その形を完成とせず、いろいろと工夫してこんなシステムを作ってくるあたり、さすがはライアーソフトの姉妹ブランドといったところでしょうか。
希氏にテキストを書かせるために出来たようなブランドなので、いかに読ませるかには本当に力を入れています。
デフォルトだとテキストは横表示ですが、私は縦表示でプレイしました。
この業界で相対的に見ると、氏のテキストは圧倒的に小説ですので、横よりは縦の方がふさわしい感じがしたのです。
加えて縦表示は、ウィンドウ表示でもそれなりの大きさで文字が表示されてグッドです。
横表示は文字が小さく、画面にかなり近づかないと読めません。

プロローグでがっつり心を掴まれました。
この不思議系世界観がたまりません。
冒頭、謎の大河から渡し守に連れられて、主な舞台となる旅籠に場所を移してもそれは同じです。
むしろ旅籠の方がさらにわけ分かりません。
同じ建物の中という閉ざされた空間でありながら、この建物ほとんど無限に広がっておりますので。
ホントになんでもありで、変な部屋や施設ばっかりです。
そのほとんどが、なんでそんなことになっているのか理由を説明されたりなんてもちろんしません。
まあ厳密に言うと説明っぽいのがあるのですが、なくても問題ないと思います。
水が上から下へ流れることを誰も疑問に思わないように、この旅籠という空間内においてそれらの不思議はそういうものとしてしか扱われないのです。
こちらとしてもその原理仕組みなんかどうでもよくなります。
そういう雰囲気が心地よいです。
そのあたりは『千と千尋の神隠し』に似てるかもしれません。
同じような不思議空間での宿屋ということもありますし、『千と千尋』も説明というものが結構欠落している作品ですので。
そしてその欠落がマイナスではなく、むしろプラスに作用しているという点で両者は共通しています。
不思議なそれはそういうものなのだから仕方ないだろうというこの世界の住人の感覚と、だんだんと理由原因が気にならなくなるユーザーの感覚がリンクして、よりいっそう世界へと没入していくのです。

キャラクター同士の台詞のやり取りだけで話が進むADV形式のゲームはプレイするけれど、普通の小説やらの活字媒体はしんどいから好きではない、という方には絶対にオススメできない作品です。
むしろ割合的には好きな方のほうが少ないくらいだと思います。
それくらいテキストはクセが強いです。
そのかわり、ハマる方はとことんハマるでしょう。
このホームランか三振か、な感じがたまりません。
そのあたりもさすがライアーソフトの姉妹ブランドといった感じです。

本編で三人のヒロインを攻略してからがむしろ本番といいますか、大いなる序章にすぎなかったというか。
真エンドとでもいうべきこれの出来が実に素敵です。
不思議空間の奥の更なる不思議空間がユーザーを待ち構えます。
このあたりまでプレイすれば、この不思議空間がなんなのか気づく方も多いでしょうし、それが分かるとなお先が気になるのです。
完全に読まされているのを感じました。
決して読みやすい文章というわけではないのですが、なぜか読まねばならないという謎の義務感が湧き出てくるのです。
プレイし終えた後、ああ面白かったというの半分、やり遂げたという達成感が半分という具合の素敵な一本でした。