天ノ少女 感想

いやー、長かったですね。
『殻ノ少女』から数えたら12年ですって?
もう笑っちまいますね。

実はこのシリーズ、私個人的には結構思い入れがあります。
アダルトPCゲームを始めたばかりのころからよく見に行っていた『ドクター伽羅のPCゲームクリニック』というレビューサイトがありまして、ここがプレゼントキャンペーンをやった時に応募して、当選した私がもらったのが『殻ノ少女』だったのです。
あれが無かったらもしかするとこのシリーズプレイしてないですし、下手するとこのサイトは生まれていなかった、までありうる、私の中では結構なイベントでした。
それもいよいよ完結。
『ランス10』の時も思いましたが、思い入れのあるシリーズが終わるときの寂寥感っていうのは堪えます。


めっちゃ高いハードル

さて本作。
先に「思い入れがある」とか言っていた手前大変恐縮なのですが、前作までの細かい部分はあまり覚えていません……。
7年ってのはそういう月日です。
とはいえ、前作『虚ノ少女』は一応感想を書いていたので読んでみたところ、「雪子って誰…?」みたいな始末でして(笑)
私自身の備忘録としてすら機能しなくなったら、このサイトに残る価値とは……?

話を戻します。
本作、よく出したな、というのが正直なところです。
もちろん、出てほしくなかったわけではありませんし、むしろ早く出せやという立場だったのは間違いありません。
しかし、あれだけ引きの強い前作のラスト、三部作の最終作という位置づけ、7年にわたる熟成期間と、ユーザーの期待値がえげつない状況です。
そんな中でいよいよリリースしたという、もうそれだけで称賛されるべきです。
そして後述するように、しっかりそのハードルも超えてきたのも実に素晴らしい。


硬派なミステリーADV

犯人が明らかにされていて、それを追い詰める過程を描くのがサスペンス、話の進行とともに犯人を明らかにしてくのがミステリーとの定義があるようで、だから本作はミステリーになります。
こういう推理系のADVをアダルトで作るメーカーもホントもうないですよね。
ここ数年でも『バタフライシーカー』とか『シンソウノイズ』くらいしか知らないです。
逆に、ADVというジャンルが一般向けにはやや復調の兆しがあるので、期待するとしたらそっちででしょうか。

このあたりのノウハウはやはり確かで、推理は非常にやりごたえがあります。
『殻ノ少女』をやった頃なんかは「こんなん自力でクリアできるか!」とかアホなこと言ってましたが、やったらやったでクリアできるように情報が管理されててホント感心します。
ADVは紙芝居じゃないし、読み物でもない、しっかりとゲームなんだともっと声を大にしていきたいです(だからノベルゲームって呼称は正直嫌い)。
実際、遊びとしてしっかり面白いです。
物語や提示される情報をしっかり読み込んで整理する必要性が遊びの中に組み込まれているので、推理とADVの相性の良さを再確認しました。
「攻略サイトに頼るとは惰弱な!」とか言っちゃいたくもなりますが、とりあえずグランドエンドまでいった時点でおまけにエンディングリストがあるの発見し、そこで半分くらいしか解放されていなかったのを知りまして、すみません攻略サイト使いました。
なんと惰弱な!っていう、すみません私は軟弱野郎です。


シリーズの締めくくりとして

『天ノ少女』というタイトル、各チャプター名、これはもうダンテの神曲です。
前作からの7年の間に、私はダン・ブラウンの『インフェルノ』と、まんがで読破シリーズの『神曲』を読んだので知っているのです(笑)
ただ単にシャレオツで名前だけ借りてるわけではなくて、各チャプターの中身が天国篇の内容とも結構リンクしてるのはかなりの作りこみを感じます。
こういうことする時に不自然さを感じさせないのは好きです。
しかしながら、はて、前作までは地獄篇、煉獄篇をなぞっていたでしょうか?
そのあたり詳しくは先述の通りさっぱり覚えてはいないのですが、それ言い出したらこのシリーズってそもそも神曲ベースで作ってたの? って話でもありますので、まあいいんじゃないでしょうか。
時間があればまたプレイするでしょうし、その時確かめましょう。

とはいえ、よくもまあこう綺麗にオチをつけました。
オチというか締めというか。
納得がいくとか、全てを裏切るとかでなく、綺麗です。
これだけ期待が大きくなってしまった冬子との話は、どうもっていこうとどこかしらからは文句が出てしまうので、ある意味力技でねじ伏せたとも言えます。
正直私も、どう文句をつけてやろうかみたいな邪悪な気持ちを欠片くらいは持っていましたが、こうもってこられるとなんかもうこれ以外ないんじゃなかろうかという、これ以外を考える意思奪われました。


本作単体として

このシリーズってもっと猟奇的だったり、やべえやつが人殺しまくるイメージだったのですが、今回はそこまで狂ったやつは出てこなかった印象です。
いや、猟奇的ではあるんですが、過去2作のインパクトが強すぎました。
あと、やっぱり前提条件として前作までのプレイありきですね。
でも体験版の前日譚はやらずに入って正解だったかもしれません。
どうせエンド条件解放したら触れることになるので、だったら作中で完結している本来想定されている順序で情報提示された方がいいです。
だんだん分かっていく感、情報に追いついていく感はそっちの方が大きいです。

『殻ノ少女』からの時系列的に、2年後、6年後と続き、事件の点が線でつながっていくのは見事でしたが、なんか6年後の事件の方はしっくりこなかったというか、動機と原因がイマイチ腹落ちしていません。
捜査に玲人を参加させて、子供の誘拐があって、それでいて6年前の事件とつなげなければならないというのがどうも無理くりにぶち込まれた感あります。
ただ、舞台と話の展開が先にあって、そこをつなげるために詳細がついてくるという作り方は好きです。
だからもう少し帳尻合わせ感が軽減されていると、というのは欲張りすぎでしょうか。
ここだけは唯一気になった点でした。

この7年で『FLOWERS』を制作していた影響か、グラフィックの雰囲気は結構変わりました。
素材ボリュームもえぐいです。
エロシーンがノーモザイク仕様なのは、杉菜水姫氏のイラストを最大限見せるためとか、そんな理由でしょうか。
モザイクが入るとアートからカテゴリ変わるんですよね。
ミロのビーナスの乳首が星マークで隠れてるの想像してください。
多分そういう配慮です。
杉菜水姫氏のプライドというかなんというか、そういうのを感じます。


おわりに

さっぱりしました。
綺麗に締めてくれたのでロス感も後を引かず良好です。
気になるのは、これが終わったらイノグレはあと何するんだろうという、下手するともう新作は作らないのかなとか思ってみたり。
噂では『カルタグラ』のHD版どうする? みたいなこと言ってるみたいですが、さて。
要望通り、あるいはそれ以上の仕事をしたにもかかわらず、終わったとたんに次を要求したくなる罪作りな一本でした。



追記

今更過ぎる話ですが、本作の読み方は何なんでしょうね?
私はずっと「てんのしょうじょ」だと思っていましたが、え、これで「からのしょうじょ」って読ますの? みたいな。
一覧のページには一応「か行」で置いておきますが、知ってる人いたら教えてくだせい。

2021.01.16