「ライアーソフトの「じゃない方クリエイター」に見る、 自由なエロゲー観の再発見」という記事を寄稿しました

先日、文学フリマなるイベントに出展されたサークル『ビジュアル美少女』の評論本に、ライアーソフトに関する記事を寄稿しました。
せっかくなのでそれをうちのサイトにも掲載させていただきます。
本にする前提の記事だったので、改行などをWEB掲載仕様に調整しています。
私の著作物なんで、どこにどう掲載しようが私の自由ですわ!!
※一応、主催のくるみ瑠璃様に掲載の許可はいただいております


はじめに

「じゃない方芸人」という言葉を耳にされたことはあるでしょうか?
コンビの芸人で売れている人「じゃない方」の芸人さんを指して言います。
本人も気にしているであろうコンビ内格差を直接突きつける、実に非人道的な言い回しです。
しかしながら、そうやってスポットライトが当たった結果、知られていなかった魅力が発掘され、中にはコンビ格差が逆転するにいたったケースまであるそうです。
今回私もそんな非人道的な所業に手を染め、ライアーソフトの「じゃない方クリエイター」たちにフォーカスすることで、彼らの秘められた魅力をお伝えしようと思った次第です。


ライアーソフト概要

さて我らがライアーソフト、いわずもがなアダルトPCゲームブランドです。
ブランド名がライアーソフトで、母体法人は株式会社ビジネスパートナーになります。
ユーザーの間では嘘屋なんて呼ばれたりもします。
今となっては少なくなった、前世紀からアダルトPCゲームを作り続けているブランドの一つです。
その圧倒的な独創性が最大の魅力で、以下のような特色があります。

企画者の個性が全力

「ブランドとは?」みたいな疑問を感じるくらいに、作風の幅が広いです。
幻想的な雰囲気ゲーからスペースオペラ、歴史物に不条理ギャグ全振りのバカゲーまで、大体なんでもそろっており、他のブランドであればまず企画が通らないであろうタイトルが平然とリリースされます。

世界観のクセがすごい

お約束の展開、みたいなものと縁が薄いです。
必ず彼ら独自のひとひねりを捻じ込んできます。
まだ見たことないものを見せてくれるという期待感において、ライアーソフトの右に出るところはありません。

壮大な何かを感じさせる未完の大器感

最近はそうでもないのですが、特にゼロ年代のライアーソフトは非常に詰めが甘いというか、目の付け所は最高なのに……、みたいなタイトルが非常に多いです。
上記2点の個性と合わせ、期待感を煽るだけ煽った挙句もう一歩足りないというロマン枠的などうしようもなさが、大変に味わい深くもあります。

要するに、すんごいワクワクするものを作ってくれる人たちなのです。


「じゃない方」クリエイターたち

なんやかんや言って、ライアーソフトで知名度があるクリエイターといえば星空めてお氏、桜井光氏、希氏。そして最近だと海原望氏がどんどん実績を積み重ねていっており、ここに加えられると思います。
しかし、ライアーソフトが彼らだけのブランドだと思ってもらっては困るわけです。
それ以外にも濃いのがそろっていることをお伝えするのが本稿の目的です。
ライアーソフトって独特だよね、でもそういうエロゲーもあっていいのかもね、みたいにもし感じていただければ幸いです。

というわけで、今回取り上げるクリエイターは3人です。それぞれの芸風と代表作の簡単な説明を載せておきます。

岩清水新一

一人目は岩清水新一氏。
歴史系のジャンルに造詣が深く、それは手がけたタイトルにも存分に生かされています。
加えて不条理系のギャグや熱い展開も作れる器用さがあります。

行殺!新選組!
歴史上の偉人の女体化は、今となっては大変ポピュラーなジャンルになりましたが、じゃあ一発目の大ヒットは何だったのでしょうか。
個人的には『戦国ランス』の謙信ちゃんを挙げたいです。
しかしその何年も前、それを新選組でやっていたのが本作になります。
まあ、似たようなことやってるタイトルはほかにもあったでしょうから、本作こそが真の元祖だ! とか恥ずかしいこと言うつもりは毛頭ありません。
ただ、そういうところさらっと押さえているあたりがライアーソフトらしくあり、にもかかわらずイマイチメインストリームに乗り損ねているのもまさにそう。

見どころは歴史ネタに加え、支離滅裂と紙一重の不条理展開。このあたりは実に岩清水氏の色が出ています。歴史不条理ギャグタイトルとでも言いましょうか。しかし、めちゃくちゃなことをやっていても、根っこのところに揺るがぬ極太の歴史モノへ知見と愛が感じられ、だったらいいよね? と、こちらも開き直って楽しめる謎の安心感があります。

どすこい!女雪相撲 胸がドキドキ初場所体験
まずこのタイトルの意味が理解不能だと思いますが安心してください、大体の人がそうです。
本作の舞台は女子大。
女雪相撲という競技に打ち込む学生たちの姿を描くスポ根モノになります。
そういう競技があるんです、そういうものだと飲み込んでくださいお願いします。
スポ根らしく、仲間たちとの切磋琢磨、汗、友情……みたいなものもなくはないですが、多くのユーザーの記憶に残るのは、ゲス思考の主人公がパイセンたちにビンタを張られる姿でしょう。
エンディングを迎えるまでに「大学女雪相撲を舐めるな!(ばちーん!)」「ふぎゃー!」というやり取りを何度見たことか。
まあ、ビンタされるたびにステータス上がって強くなるから仕方ないね(?)。

不条理というか、基本的に意味不明です。
意味不明なのですが、なぜか要所要所でスポ根らしい熱血さを見せつけられ、脳が混乱したまま「なんかすごいものを見たのかも…?」みたいな後味だけを残していく、「じゃない方」のライアーソフトを象徴するようなタイトルです。

平グモちゃん-戦国下剋上物語-
そういう紆余曲折を経てたどり着いた、岩清水氏の(筆者的)最高傑作がこちら。
戦国の乱世を描くにあたり、権謀術数、裏切り裏切られの「下剋上」にフューチャーした意欲作です。
フィクションだからと悪ふざけの限りを尽くした『新選組』とは異なり、ゲームだからできる、考えうる限りのIFを盛り込むことで「歴史とは」という壮大な世界を見せつけてくれます。
「歴史観」という言葉を使っていることからもそのあたりは意図的と見ていいでしょう。

またその題材として、松永久秀を選ぶあたりが実に「らしい」ところ。単純に波乱万丈そのものを生きた人なので、IF展開盛り盛りにするため都合がよかったのもあるでしょうが、それにしたって生き方の振れ幅がとんでもない。
どれだけ彼のことを思えばこれだけ詰め込めるのかという、隠れた名作です。

天野佑一

二人目は天野佑一氏。
とにかくひたすらに(良い意味で)頭が悪い。
基本的にギャグ路線で、不条理ギャグやニッチすぎるパロネタを多用します。
「俺についてこれるかな?」というか、そもそも誰かがついていくことを想定していないような吹っ切れ方が最高に素敵。

ANGELBULETTE
銃弾が通じないモンスターが跋扈する西部劇の世界で、やつらを倒すためには魔力を込めた攻撃が必要だけれど、魔力を溜めるには主人公がM男的プレイでイジメてもらわなければならないという、もう出だしからしてイカレております。
これです、この荒唐無稽さが天野氏なんです。しかもこれで最後まで走り切ってしまうからタチが悪い。

また、ゲーム性が微妙でして、本作の場合は魔力をためるためのM男プレイの成否がランダムで読めず、戦闘パートも必勝パターンが見えているので、相手の動きに合わせてコマンドを選ぶだけの作業が延々続くなど、遊びとしてのクオリティは高くありません。
しかしながら、それを補って余りある、頭のねじがぶっ飛んだ不条理ギャグが織りなす圧倒的な荒唐無稽さは他の追随を許しません。
ここでしか拝めないこのシュールさは必見です。

魔都拳侠傳 マスクド上海
心を入れ替えて、何かの間違いでヒットあるかもよ…? を狙って変身ヒーローをやってはみたものの、性根はなかなか変わらないよね、人間だもの……みたいなところに落ち着いたのが本作です。

ときは1938年、悪い仙人の封印を解いてしまい、それを封印し直すため「マスクドシャンハイ」の力を手に入れた主人公の戦いを描きます。
が、不条理ギャグと熱血の化学反応で得体の知れない、すごいものの片鱗は感じるんだけれどなにか足りないという、イマイチ煮え切らないところに全力で胴体着陸します。
戦闘パートも同様で、着想は悪くないし世界観の要素もしっかり盛り込めているのに、テンポとバランス調整で台無しになるという残念具合。

悪くはないし、むしろ独創性など見るべきところもあるのになぜか傑作になりきれない、実にゼロ年代のライアーソフトらしい仕上がりです。

水スペ 川野口ノブ探検隊?これが秘境だ!人跡未踏!立ちふさがる商店街!八鏡大学に隠された地球最大の謎を追え!!
氏の荒唐無稽さがついに極まったのが、八鏡大学探検部の活躍を描く本作。
ありえないオカルティックな現象が日常的に発生する大学構内や近隣地域で繰り広げられる冒険の日々は、なんというかその、一定以上の年齢の方にはわかる昭和バラエティ特番のノリ。
これに不条理極まる展開と誰もついてこれないパロディと無限の悪ノリが合わさり、そこはもう混沌そのものの世界。

個人的に本作を象徴していると感じるのが「野生化した男色趣味の野良學天則を女装した主人公が色仕掛けで誘い出す罠」を仕掛けるシーン。もう意味不明ですよね。
私にもわかりません。

加えて、本作のゲーム部分を担う冒険パート。
これがゲームブックのように、1画面で表示されるごく短いテキストで構成されるイベントに対し、こちらの行動を選択することでイベントの顛末がみられるというシステムなのですが、もはや終わりなき不条理2コマ落ちマンガを延々見せられるような、もう勝手にしてくれ……という諦念に至らずにはいられない奇跡体験アンビリバボーです。

睦月たたら

最後三人目が睦月たたら氏。普通に良作を作るのに、ユーザーへの認知度はイマイチなんだろうなと思い挙げさせていただきました。
個性が薄いわけではないけれど、このブランドの中にいると相対的に薄く感じられてしまうオールラウンダーです。
ぼーん・ふりーくす!
そんなたたら氏の一本目です。
あえて悪意を持って端的に言うならば「不治の病の妹を救うため、彼女に人体改造を施す兄の物語。なお、改造手段はセックスである」みたいな話になります。
まああれです、彼にもライアーソフトの血が流れているということですね。
しかしこのぶっとんだ設定を、ギャグありシリアスありでまとめ上げてしまっているのが氏の手腕でして、妹モノとして高い純度で仕上がってしまっていたりします。

一方で、ゲームパートは慣れるまで苦行、慣れたら作業という人を選ぶバランスになっており、やっぱり遊びのクオリティがイマイチなライアーソフトの悪癖がでてしまってもいます。

オイランルージュ -花魁艶紅-
まずタイトルがくっそオシャレ。
サブタイトルっぽく「花魁艶紅」と漢字表記が添えてありまして、それがもうくっそオシャレ。

遊郭を経営するSLGの体ですが、難易度がかなり易しめなので、これ自体雰囲気づくりの側面が強いです。
また、吉原遊郭文化の入門書的なところがあり、素で勉強になります。
そういう前提を共有するから理解できるヒロインたちの心情など、このあたりは非常に巧み。
めいびい氏の浮世絵っぽいCGも世界観を深めてくれています。
埋もれているのが本当に惜しいやつです。

屋上の百合霊さん
今回取り上げる中では一番有名かもしれません。
百合カップルの霊が見えるようになってしまった主人公が、彼女たちの目指す「百合トピア」を実現すべく、学内の百合カップルの仲を取り持っていくという内容です。
非常に爽やかな百合を描いていますが、構成的にはかなりやんちゃなことをしていまして、5組(7組)のカップルの同時進行、主人公からの客観的な視点、本人たちによる主観的な視点での場面掘り下げ、そしてクリア後の場面間の補完シナリオの開放と、下手をすれば情報がしっちゃかめっちゃかで収集つかなくなるところ、過不足なく、それでいて軽やかに仕上げています。
ただでさえ難易度高めの題材を、さらに難易度高めの調理法で仕上げきった、見た目以上の怪作です。


結論:ライアーソフトはぶっとんでいる

以上、ライアーソフトの「じゃない方」クリエイターたちの9本をお送りしました。 どうですこのありえない守備範囲。
かつて2chが「ハッキングから今晩のおかずまで」なんて標榜をしていましたが、それ風に言うと……、たとえば睦月たたら氏だけで見ても「近親ケモナー改造姦から爽やか青春百合まで」という荒れ具合です。
まあ要するにそういうわけです。

そもそも、上記の3人がこれだけ好き勝手やって同じブランド名乗ってる時点でどうかしています。
これに加え、冒頭で挙げた星空めてお氏や桜井光氏などが、また濃くて尖った世界をやっているわけです。
「ブランド」の意味するところとはいったい……?

で、冒頭でご紹介したライアーソフトの魅力に戻るわけです。
先に以下の3点を挙げていました。

・企画者の個性が全力
・世界観のクセがすごい
・壮大な何かを感じさせる未完の大器感

どうでしょうか? 各タイトルの紹介で具体的にどんなものか感じていただけたでしょうか? 筆者としては「聞いてはいたが、そこまでとは聞いてない」みたいなリアクションを所望します。

そして素晴らしいのが、ライアーソフトは昔からDL販売にも積極的に取り組んでおりまして、今回取り上げたタイトルはいずれも3,000円以内で購入が可能な点です。
セールであればなんとさらに半額に…! もし「へぇ、ライアーソフトってこんなところだったんだ」「いい感じで頭おかしいな」と興味を持っていただけましたら、FANZA GAMESとかDLsiteを覗いてみていただければ幸いです。


エロゲー観を広げよう

さて本稿、実はもう一つ裏テーマがありまして、みなさんなんかこう「エロゲーとはこういうもの」「こうあるべき」みたいな固定観念、持ってしまっていませんか? たとえば、キャラゲーとかシナリオゲーみたいなカテゴライズとか、恋愛の過程とかエロシーンの数とか、そういう枠や評価軸にはめ込んで考え出すと、どんどん視野が狭くなっていきます。

今回取り上げた9本を見てください。
とても自由です。
玉ねぎと人参と牛肉を渡されて、みんなが必死に美味いカレーを作ろうとスパイスの調合に頭を悩ませているところに、「肉じゃが出来たよー!」と殴り込んでくるような清々しさがあります。
結局のところエロゲーもエンタメの一種であり、エンタメの目的なんてものは消費者の「あー面白かった!」で8~9割は達成されるものではないでしょうか? 先の例えで言えば、美味いものが出来るのならカレーであろうと肉じゃがであろうと、どちらでも構わないはずです。
要はアプローチの問題であって。
もちろん、今日はカレーの気分! という日があっても構いませんが、それに固執すると、手段が目的にすり替わってしまいます。

そしてもう一つ、ノベルゲーだけがエロゲーの形ではないということです。
ADVやビジュアルノベルなど、もはや呼称自体が各々好き勝手使われているせいで面倒なことになっているのですが、単純化すると「読む」だけがエロゲーではない、とでも言いましょうか。
今回取り上げたタイトルの多くには、クオリティはさておき、ゲームパートが盛り込まれています。
それはもしかすると、ライアーソフトの面々がかつて在籍してた「遊演体」がTRPGを制作していた影響なのかもしれません。
操作し遊ぶことでしか得られない没入感や共感、愛着というものは必ずあります。
エロゲーとは「読む」もの、と囚われてしまうと、そういう楽しさ、面白さを取りこぼしてしまいます。
なにより、エロゲーのゲーはゲームのゲーなのですから。


おわりに

というわけで、最後に少々お気持ちポエムをぶち込ませていただきました。
少々やや説教くさい内容になってしまった点はお詫び申し上げます。
本稿の趣旨としてはあくまで「こういうやべえやつらがいるんだけど、ちょっと興味ありません?」というところにあります。
その上で、「なんだこの世界は」「こういう面白さもあるのか」といった具合に、皆様の楽しみの範囲が広がる一助になることができれば、これにまさる喜びはありません。
といったあたりでお目こぼしをいただければと思います。

正直、ライアーソフトはとっつきにくいブランドだと思います。
筆者も10年以上ユーザーをやっていますが、いまだに彼らが何を考えているのかよくわかっていません。
そんなもんです。
ですので肩肘張らず、気軽に、雑に、手に取ってみてください。
ライアーソフトが皆様のエロゲーライフに彩りを添えてくれることを願っております。


寄稿した後のお気持ち

みたいなやつを寄稿しちゃったですよね。
駄文とは言いません、ビジュアル美少女さんに失礼なんで。
校正もしてもらいましたし。
ただね、実際本になったのもらってびっくりしたんですが、なんかいるんですよ、プロの人。
比喩とかじゃなくてガチでプロの人、本とか出してる人。
ただでさえ私がこういうラフな書き方するせいでもう浮いてるのに、よりによってそのプロの人のすぐあとに掲載ですよ。
え、嫌がらせか何か…?
ラフな格好でいいですよ、と言われたのを鵜吞みにしてTシャツで面接会場行ったら自分以外みんなスーツだった時の就活生より場違い感がすげえのなんの。
しかも、就活生と違って私は何も言われてないのに勝手にTシャツ着ていってますからね。
そりゃあかんて…。
反省はしないけれども。

そんな私の場違い感が光る『ビジュアル美少女vol.1』がBOOTHで販売中らしいです。
BOOTH:https://visualcutegirl.booth.pm/items/5247625

明日のランチを抜いてでも買ってください。
そうすれば、vol.2にまた私の記事が載るかも…?
……いやまあ、そういう本じゃないですけれども(多分)。


2023.11.25