終のステラ

リトバスEX以来、久しぶりのKeyです。
Keyは嫌いじゃないんですが、Key信者の方々がね…。
特に昔はひどかったんですよ、いわゆる「鍵厨」みたいな人たちがまあ鬱陶しくて鬱陶しくて。
それが最近は、この業界自体もこんな状態でございましょう?
面倒な人たちはゼロにはなりませんが、母数が壊滅して絶対数も少なくなったものですから、じゃあそろそろまた手を出してやってもいいかなと。
それが理由の1割くらいで、残り9割は「シナリオ:田中ロミオ」だからです。
いや、それだと『Rewrite』がノータッチな説明がつかんな……。


SFは良い、非常に良い

さて本作。
SFとしてのクオリティが非常に高いです。
出来の良いSFって、世界観がすごいしっかりしてます。
こういう科学技術が存在した場合どういう世界が形作られているのか、人間社会がどう影響を受けて営まれるのか、そのあたりの解像度が違うんです。
一方で、舞台装置としてAIやアンドロイド、タイムトラベルなんかをピンポイントで使ってる作品なんかだと、やっぱりあくまで味付け用の調味料くらいのウェイトだったりするんで、SF要素に対する奥行ってあんまり重視されません。
そういう作品が「SF作品」とかカテゴライズされると、コアで硬派なSFファンたちがブチ切れるわけですね。
それが怖くて「SF好き!」とかおおっぴらに言えない時期が私にもありました。

本作に話を戻しまして、先述の通り世界観の作りこみは抜群です。
そういうSFとしての水準の高さに加えて、ジュードとフィリアの旅の目的、ウィレムの思惑にフィリアの存在理由、AIに支配された世界の謎と彼らの行く末までが完璧に調和しており、このあたりの物語の舞台としての世界まで作りこみが完璧ときたら、もう手放しで称賛するしかありません。
この世界を味わうためにこの物語があり、この物語を描くためにこの世界がある、そういう必然性まで感じられるレベルで練り上げられています。
この完成度、この満足感はなかなか得難い。


価格破壊がすごい

完全に頭おかしいのですが、これを1,980円で売らないでください。
完成度はもちろんですが、世界でも一線級のイラストレーターであるSWAV氏がこれだけの素材量を投下して、ロミオ氏がシナリオ書いて、背景のボリュームだってえぐいですよこれ。
私はあんまり気にしていませんでしたが、BGMも実績ある人使ってらっしゃるんでしょ?
何万本売る前提で作っていたのか非常に気になります。
いやホント、これはマジでぶっ壊れ価格なんで、移植とか海外版とか作ってちゃんと開発費回収してください。
あと、この価格帯ならいつかDLコード配布とかやってロミオ信者増やすのに使いてえですな。


生き残るのはこのスタイルか

キネティックノベルがまさかこの時代に蘇ってくるとはね…、あ、ポリフォニカやった? キネティックノベルといえばあのあたりが……
とかやりだすと、クッソ面倒くさい老害ムーブ一直線なので控えます。

ビジュアルアーツが今になってキネティックノベルを持ち出してきたのは間違いなく狙いがあるはずで、おそらくはADVやビジュアルノベルが生き延びる道としてこの路線しかないという判断があったのではないかと思います。
ちょっと前からアニプレックスがやっているANIPLEX.EXEの動きだったり、今年は『夏ノ終熄』とかもあったりしました。
このあたりの8~10時間くらいのボリュームが多分ちょうどいいんですよ。
それでいうと『マルコと銀河竜』あたりも同じ匂いを感じ取っていたのかもしれません。

毎年「エロゲ衰退論」的な話をする人たちがいる中で、最近ホットな話題だと戯画が事業撤退するなど、そういう雰囲気は強まっているように感じます。
ただこれってもしかすると、死んだのはエロゲではなくフルプライスエロゲって話なのかなと思っています。
1本で20時間とか30時間かかるエンタメがもう求められていないのでしょう。
アニメや映画を1.5倍速で見るのは極端な話だとしても、多様なエンタメがある中で消費者の時間的リソースの奪い合いはそういう激化をしている世情を鑑みると止む無しという印象です。
このあたりの話はまた個別に記事にします。


おわりに

繰り返しますが、非常に満足度が高いです。
このレベルのエンタメが1,980円で楽しめるのはコスパが高すぎるので、すべてのオタク系コンテンツ消費者は本作を遊べばいいと思います。
この路線で跳ねてくれれば他も追従してきて、さらに良いものが出てきてくれるはず。
それくらい、期待したっていいじゃありませんか。

個人的には、ADVジャンルの今後を決定づける可能性すらあると感じた一本でした。


2022.12.31