JOKER -死線の果ての道化師- 感想

何を隠そう、元KOTYe住民だった私です。
1本だけこちらにもリライト記事が掲載されているタイトルはありますが、基本的に向こうで選評書いた作品はこちらではノータッチです。
……という、クソどうでもいいマイルールはさておき、KOTYe2012で一時期非常に話題になったのが本作です。
私も当時は、えらいクセの強いライターがいるんだな、くらいに思っておりましたが、結局プレイする機会がないままここまできておりました。
で、先日の「あかべぇそふと10本1万円セール」が開催されまして。
1000円ならとりあえず買っとけ! ということで、本作を紐解くことと相成ったわけでございます。
セールで3セット30本買って、なんで着手が本作からなのかはきっと永遠の謎。

さて中身。
良くも悪くも期待ほどぶっ飛びきれていない印象です。
本作が話題になった一番の要因が、その独特すぎるワードセンスでした。
が、それが発揮されるのがホントに極々一部。
前評判のような断続的に押し寄せる謎ワードの暴力、なんてことにはなりません。
主人公のセリフ回し、モノローグが多少そういうの狙っている気配はありますが、どちらかというとひたすら空振ってる感が強いです。
一瞬この空振り加減が、実は頭のネジが外れているキャラの演出なのではないかと疑ってみようかとも思いました。
しかしこの主人公、シリアスシーンだとなぜか言動が凡百の主人公に成り下がるんですよ。
普通に無難でありきたりな仲間意識とか正義感とか振りかざして「え、君全然普通やん……」みたいな。
素のノーマルさ加減で、ただのウケねらい野郎が薄っぺらくスベり倒しているようにしか見えないのです。
『CROSS†CHANNEL』の太一を目指そうとして全力でスピンアウトしていった感じ。

ストーリー・設定の構成にも疑問が残ります。
そもそも、やりたいこととかみ合っていないのでは?
根本的に、デスゲーム的な舞台装置を選んだのが失敗かもしれません。
特にルールが不明瞭かつ曖昧で恣意的に運用されるってのはちょっと看過できかねまして、そのあたりはうちのサイトに掲載している作品だと『Closed GAME』とかに近いかもしれません。
とにかくゲームのルールや運用に関するツッコミどころが多すぎて、ホントなんとかしてください。
さらに、各章でフォーカスするヒロインの過去回想が長いわ、呪いのカードの期限が3日でこれも長いわで、ひっじょうに冗長です。
それでいて張り巡らされた伏線とか、冴えわたる推理とかあるわけでもなく。
というか、デスゲーム系の作品で主人公が最終盤まで受け身ってありえんくない?
さんざん人が死んで、仲を深めたヒロインが凌辱されて、その場だけ憤って次の章に入るや否やウケ狙いのダダスベり野郎になる繰り返しです。
多分、2~4章はすっとばしても全然話通じます。
合コンで勘違い野郎の自称武勇伝を延々聞かされる女の子は、もしかするとこんな気持ちなのかもしれません。

主人公のキャラは残念でしたが、一方で日屡間先生と王子はよかった。
ホント、本作の数少ない良心です。
多分、本作のポイントの一つに、懇ろになったヒロインが無残にも凌辱されるってのがあるのかもしれないのですが、日屡間先生は最後までブレずにやり遂げてくれました。
しかも言動が主人公よりよっぽど面白いというね。
その点は王子も同様。
もしかすると、主人公より王子の方がやりたかった姿に近いのでは?
JOKERの正体は、引っ張りに引っ張ったわりには微妙。
まさかここまでカタストロフ無いとは、逆にびっくりですよ。
ああ、そう、で済んじゃいました。
JOKER絡みでもゲームの根幹に絡むところで意味不明な点がボロボロ出てきたり、ホント隙無く残念な仕様です。

前衛的過ぎたり、やりたい事に時代が追い付いていなかったり、そういう情熱の果てのクソゲーには不思議な魅力があります。
本作が不幸だったのは、そういう期待を抱かせておきながら、その実どうしようもなくただ詰めが甘いだけだった点でしょう。
それでも一瞬だけでも話題になっただけマシと捉えるか、無駄にあかべぇのブランドを傷つけるくらいなら静かに忘れ去られた方が良かったのか、なんとも言い難い一本でした。

2020.05.28