夏ノ終熄

2022年、かずきふみ働きすぎ問題です。
本作に続き、『クリミナルボーダー』『ツヴァイトリガー』が立て続けに情報公開され、まさか私も「「企画:かずきふみ」を信じろ!」を1年で3回も言う事態に陥るとは夢にも思わず。
まあ実態としては、時間差でスタートしていた企画が今年に集結しただけかと思いますが、気分的には「グ、グランドクロス…!」「なっ、なんだってェ――!!」ですよもう。
ちなみに、年々MMRネタは通じなくなっているらしいです。
それにこそ「なんだってー!!」ですが、それはもうええ。


有名クリエイター大集合

さて本作。
ビッグネームを揃えて単発のロープラをぶっこんでいくっていうのが、なんか最近のトレンドな気がしています。
ANIPLEX.EXE発の『徒花異譚』や『ATRI』であったり、ビジュアルアーツがkeyブランドでやってるキネティックノベルであったり。
keyは本作と同日に、田中ロミオを起用した『終のステラ』をリリースしてたりしますし。
そういう流れの中に置くと、本作の立ち位置というのもしっくりくるのではないでしょうか。
まあ今挙げた2ブランドと比べてしまうと、さすがにパンチが足りないかもしれませんが。

とはいえ、かずきふみ、うみこ、わいっしゅ、癒月(地味に作詞Duca)、三咲里奈と、結構なメンツが集まっているのは間違いありません。
一番びっくりなのが背景のわいっしゅ氏です。
この業界の人っていうイメージないですし、なんなら普通のスマホゲーのコンセプトアートとか、そういうフィールドで活躍できちゃう人なんじゃないの? っていう。
我ながら私も権威主義的というか、ネームバリューに勝てないミーハーなところがありますので「うおぉぉ、すげえ!!」と、そういう引きを狙ったCUBEの思惑にまんまとハメられた感がありますけれども。

ただイマイチ噛み合ってないところもありまして、背景単体でみたらすごく良いのに、ADVの画面で立ち絵を合わせるとなんかしっくりきません。
わいっしゅ氏のテイストって、ややポリゴン感があるというか、3Dな雰囲気あるんですよね。
そこにうみこ氏の二次元美少女ど真ん中な原画に、美少女ゲームらしいセル塗りに近いテイストの立ち絵が合わさると、なんかギャップがあります。
まあ進めているうちに気にならなくなるのですが、それって単純に、常時そこまで詳細に背景まで見てるわけじゃないってだけなんですよ多分。
注目すると気になるけれど、注目しなければ気にならない、ならそこまでこだわらなくてよくね? っていう、背景作家の悲哀を感じずにはいられません。


スローライフだ!

仕事に疲れたおっさんの逃げ先のひとつとして、「スローライフ」とか「追放されたがもう遅い」みたいななろう系ジャンルが支持されている側面があると、個人的には思っています。
ストレスなくのんびり暮らしたい、お前らが評価していないところで俺はこれだけ貢献しているのだが? みたいな願望とか妄想がね、刺さるんですよ多分。

本作はわりとガチめに自給自足に近いスローライフを営んでいらっしゃって、おいWaffleよ、『奴隷姫騎士と奴隷侍女とのスローライフ』でこれをやっていただきたかったのだけど? みたいな心持ちです。
しかしガチっぽすぎるせいで、あれ、都会のストレス社会から逃げ出しても案外理想郷ってないんじゃね? という、逆方向の絶望感がありました。
生きるためにここまで労力を使うって感覚、ぶっちゃけ普段はほぼないですもの。

というジャンルへの先入観ありきで、少しずつ違和感を差し込んでくるかずきふみ氏の手腕はさすがでした、やられました。
なんか微妙に噛み合ってない世界観への認識と、答え合わせがあった時の「あー、やっぱり」感が地味に快感。


欲張り企画

かずきふみ氏の描く、女の子女の子してないヒロインが好きです。
男子高校生みたいなアホな会話ができる感じがもうたまんねえです。
本作のミオも、氏の過去作でいうと『あけいろ怪奇譚』の佳奈ちゃんとかと同系統かと思います。
つまり大好きです。

これは純度100%の偏見ですが、いかにもかわいい女の子なヒロインは、会話パートもそういう方面の魅力を演出するために全力なので、やり取りがあんま面白くないです。
ただ延々と「かわいい」が繰り返されるだけで、きらら系4コマを無限に読み続けられる人じゃないと食べられません。
だからこそ、本作みたいにキャッチボールの楽しさが味わえる会話はとても良いです。
あと乳がでかい、素晴らしい。

で、そんなヒロインと世界に二人きりな勢いでスローライフじゃないですか。
そうだと思ってるじゃないですか。
そしたらなんか世界終わってるっぽくて、なんか二人もダメっぽくて、見えてる終わりを受け入れ二人一緒に朽ちていく瞬間とか、もうなんかよくわかんないけど美しいじゃないですか。
不意打ちにもう感情が揺さぶられすぎてヤバイです。
バッドエンドだけど、幸福ではないかもしれないけれど、得体の知れない美しさがあります。

なんかこれ、初回はバッドエンド固定です?
2周目はなんかタンパク質調達しやすくなってて、なんか意図してそういう構成にしている雰囲気ありますよね。
世界が終わってるという現実がこのインパクトで突きつけられるからこそ、2周目以降の幸福が際立ちます。
2周目END見たあとのメニュー画面、とても良い。

そんなヒロインの魅力と世界観的な面白さの両立を、しかもロープラ~ミドル帯のコンパクトさでやってしまうあたり、かずきふみ氏が私の知っていたところからさらに高いところに行ってしまったように思います。
食わすもの次第でヒロイン死ぬとか『奴隷との生活 -Teaching Feeling-』かよ感ありましたが(笑)


おわりに

こういうクリエイターのネームバリューも使って売る方法、私的にはバッチこいです。
ただ、そうなるとブランドってなんなん? みたいな話をせねばなりません。
私としては、ブランドってどれだけの確度で面白いものを提供してくれるの? という信用を担保するものになります。
今回、実はCUBEタイトルは初プレイでしたが、じゃあこのクオリティを実現するためにCUBEはどれだけ関与したの? というのが正直見えません。
となると、本作に参加したクリエイターの信用度は上がっても、CUBEに対する信用はゼロのままです。
売り方作り方としては面白いけど、そのあたりの折り合いをどうつけていくべきなのかなという課題が浮き彫りになった一本でした。


2022.10.03