下戸勇者~酒は飲まねど酒池肉林!~ 感想

正直なところ、噓屋佐々木酒人は死んだと思っていました。
クリエイター的にではなく、生物的にです。
それがなぜか突然キャラメルBOXから黄泉がえってきまして、我が家は大混乱でございます。


嘘屋佐々木酒人の生死について

まずは嘘屋佐々木酒人氏についてです。
私は氏の動向を公式サイト『奥さん、嘘屋です』にてウォッチしております。
恐らく日本で上位100人に入るくらい熱心に見ているといって過言ではないでしょう。

氏の活動記録の更新が途絶えたのが2016年5月。
まあよくあることよと音信不通のまま、前作『タンテイセブン』が出たのが2017年6月。
以降、また途絶えた更新がどうなるどうなると追い続け2018年1月、「脳梗塞で倒れていた」と衝撃の報告。
そしてまた長い潜伏期間に突入と。

まあ確実にお亡くなりだと思いますよね。
最近では『ベルセルク』の三浦建太郎氏の訃報が記憶に新しいところですが、この業界のクリエイターは若くして亡くなる方がまあ多いこと。
脳梗塞か何か再発してお隠れになったと、さすがに2020年に入ったころには諦めましたよ、ええ。
それが2021年4月、いきなりの生存報告と新作情報。
嬉しいやらなんやらで感情が大渋滞のパニック状態でございました。


期待通りのクセの強さ

そういうわけで本作、我が家的にはこの世に生まれ落ちた時点でもう祝福されておりました。
生まれてきてくれてありがとう、生きていてくれてありがとうです。
せっかくですので、もちろん中身の方も楽しませていただきますとも。

で、内容的には「なろう系的なのを俺ならこう料理する」みたいなスタンスが、私の知らない初めての嘘屋な味わいで非常に新鮮でした。
元々いろんなうんちくを絡めて話を膨らませるパターンが多い嘘屋氏ですが、今回は完全に創作の「実はこうなってるんだよね」みたいな話連発で、まさしく「嘘屋」の面目躍如といったところでしょう。
主人公の設定も、ゲーム世界転生にありがちな「ゲームのお約束だとこうだよね」という知識をベースに動くわけでなく、与えられたチート能力を手にして無双してしまうわけでもなく、一通り無双し終わったあと感というか、なんかそういう微妙なところを突いてくるひねくれ具合が実にらしいです。
ありそうでなかった、でも斬新かって言うとそうでもない雰囲気がなかなか面白いです。

また、脳のお病気をされて心配しておりました嘘屋節的なテキストも健在でして、こちらも一安心でございます。
『タンテイセブン』の時に、なんかダジャレやらオヤジギャグみたいなのが深刻になってきたなと感じておりましたが、本作だとさらに進化(悪化?)した印象で、事前に心の準備してなかったらかなりキツかったかもしれません。
面白いとかじゃなくて、ああ嘘屋やってるなって感じです。
噓屋テキストによるバカバカしいエロシーンが延々と続くって意味では、『びっちンびーち』や『つまびっち!!』のノリが近いでしょうか。
要するに、ほぼ全編にわたってヤマなしオチなし進行ってことです。
そしてあれをフルプライスでやるという悪魔的発想です。
さすがに先に挙げた『びっち』2本よりは話がありますが、とはいえ嘘屋補正がなければかなりしんどいです。


残念な足回り

システムはだいぶひどいですねこれ。
起動段階でここまでもたつくのは久しぶりかもしれません。
起動したりしなかったり、したらしたで音が出なかったりで非常に苦しんだ末、久しぶりにメーカーサポートにお問合せしました。
そしたらメーカーからDL版はFANZA GAMES管轄だとの誘導がありまして、あれやこれやいろいろ検証したところ、向こう指定の解凍ソフト使わなかったのが原因ぽいという初めての結果が出ました。
そういうのもあるのね……。

また、UIも相当に安っぽいです。
そこはかとなくゼロ年代中盤くらいの、今見ると非常にチープな香りが漂います。
UIテキストなんてこれ、懐かしのワードアート感すらありますよ。
よく見ればタイトルロゴも相当……。
同じいちご味から10年以上前に出た『とっぱら』からむしろ退化してません?
ホイールでテキスト進められないのは、また何かエラーかと思いましたもの。


安っぽいけど安いわけじゃない?

いや決して、これでフルプライスかよって話をしたいわけではなく。
変なところで労力使ってるんですよね。
例えば序盤、ヒロインをどの順番で仲間にしていっても整合性取れるように調整がしてあったり、エロシーンもキャラ数が多くて作画カロリーでかそうなCGガンガン投入してきたり、やたら手はかかってそうな部分があります。
これが限られた予算の中で検討に検討を重ねた選択と集中の結果なのかどうかは知りませんが、集中して力入れるのそこかいっていう気持ちは若干ね……。
勇者が各地でドヤって回るのは結構嫌いじゃないので、エロシーンに振りすぎたリソースをもう少しそっちに回してくれれば、ぼちぼち楽しめたかもとは思えます。


おわりに

これは邪推ですが、ディレクター的な人のキャパが空いてて、手を止めるのももったいないからクリエイターかき集めて一本作りましょうって話が上がったものの、単発の新規ブランド作るのもあれだからイチゴ味使っちゃお! みたいなノリだったのじゃろうと思っています。
キャラメルBOXというそこそこ知名度がある看板が使えて、しかもいちご味はしょせんサブブランドなので何かやらかしても本体にそこまでダメージは無い(はず)という、これは美味しいやつです。
しかもいちご味は前作『はじカノ』まで10年間沈黙してたわけでございましょう?
退化した足回りと唐突すぎる嘘屋氏の起用、そのへんと合わせると、そういう邪推したくなります(楽しい)。

そのあたりの場外戦でなんやかんやあるのがやっぱり嘘屋氏らしいなというのと、生きていてくれて本当にありがとうという一本でした。

2021.09.07