殻ノ少女 感想

先日『天ノ少女』でもって完結したパラノイアシリーズ。
その完成度はそれはそれは素晴らしいものでしたが、12年という月日は私からシリーズの記憶をごっそり消し去っておりました。
また折よくお引っ越しをした際に、本作のパッケージが押し入れから出土いたしまして、どうせまだサイトに掲載も無かったことですし、これはいっちょ再プレイでもしてみようと思ったわけです。


本作との出会い

本サイトでは何度か書いているのですが、かつて「ドクター伽羅のPCゲームクリニック」というレビューサイトがございまして、それはそれはお世話になっておりました。
こちらのサイトでプレゼントキャンペーンが開催された折、日頃の行いもあってか私が見事当選を果たし、頂戴したのが本作だったわけです。
当時はそこから完結までに10年以上かかるなんて思ってもいませんでしたし、なんだったらドクター伽羅の影響でこんなサイトを運営するにいたるなんて、まさか、まさか……。


当時と今で比べてみて

さて本作、その昔にプレイした時はもうダメダメでした。
適当にやってると何がどうフラグなのか全然わからずで、完全に迷子になった思い出があります。
しかし私もあれから年を経ました。
12年という月日で積み重ねたあれやこれやで、いろいろできるようになっているはずです。
そう信じていたのですが、やっぱだめだこりゃ。
また迷子になって、『天ノ少女』がどれだけ洗練されていたのかを痛感しました。
結局また攻略サイトのお世話になるとかもうね、どこまでも情けない。

細かい回収はさておき、大まかな部分が自力で何とかできるようになっていた『天ノ少女』と比べると、本作はまだ大味さを感じます。
材料出してるんだから解けるっしょ? みたいな大味さです。
このあたりを改めて見ると、『天ノ少女』はちゃんと解けるように、ユーザーに解かせるように作ってたんだと感じられます。
というか、そもそもコンセプトが違うのかもしれません。
本作の場合、恐らくは『カルタグラ』のヒットで開拓したエログロサイコスリラー路線を踏襲しています。
やべえやつがやべえ猟奇事件を起こしまくってうひゃー!ってやつです。
何かあるとすぐエロシーンに突入しちゃうあたりも、イノグレブランド確立前のまだアダルトPCゲームやってる雰囲気あってよろしです。


信じられないほど覚えてない

『天ノ少女』でまあ痛感しておりましたが、信じられないくらい話忘れててびっくりです。
今回改めてプレイして、嘘、なんでこれを今まで忘れてたの…? っていう話をじゃんじゃん思い出して、自分が催眠調教されてるのに気づいてしまったヒロインみたいになってます。
「あーあったあったそんな話」ってのが続々で、周回遅れで『天ノ少女』に記憶が追いついていく感覚、これはこれで得難い何かかもしれません。

例えば『天ノ少女』の感想で「天は神曲の天国篇的なあれじゃろう、ただそんな神曲の話はこれまであったかのう?」みたいなこと書きましたが、ありましたね、ごりっごりに。
しかも地獄篇の内容で。
黒い聖母の話もごっそり記憶から抜けてました。
冬子の家系についても半分くらい忘れてました。
他にも六識やステラの過去とか、月世界のバイトの子とか、いやあすごいのなんの。
やっぱね、10年以上寝かすと一回やった作品も全く新鮮な気持ちで楽しめるんですね!(ポジティブ)


ミステリーとしての面白さは一級品

先述の通り多少大味ではあるのですが、面白いんですよこれ。
『金田一少年の事件簿』並に容赦なく、全く先が予想できず油断できない緊張感、ノーヒントで推理するのは難易度高めですが、重厚に練られた背後の設定を解き明かしていく過程のワクワク感、ハンパないです。
そこに猟奇殺人の狂気と単純にグロいものへの怖いもの見たさがブレンドされて、まあ収拾がつきません。
何か得体のしれない原動力に背中を押されてぐいぐい進まされてしまう違和感にも近い吸引力みたいな魅力です。

推理パートや操作画面も、何が起きているのか自分の手で確かめるという没入感を高めるために必要で一定の効果はあげているとは思いますが、一部すっごいシビアでそんなん私みたいなバカには分からんよもう……、みたいなのもありましたので、そこは調整不足です。
何度も引き合いに出してアレですが、実際に『天ノ少女』ではかなり改善はされてたわけですし。
一方でミステリーのお約束をしっかり押さえている部分もあり、例えば「皆を集めてください」から全容解明の推理披露が始まるところとか、めっちゃテンション上がりますもんね。


冬子はしっかりヒロインです

地に足ついてなさが良い意味で浮いてます。
作中での言動もそうですが、一番はやはり声。
それが他サブヒロインとは一線を画する存在感が感じさせます。
あじ秋刀魚氏がデビューからこの役っていう引きの強さ、持ってる人は違うなとしみじみ。

からの、ああいう終わらせ方に持っていくイノグレの変態判断。
しっかり内容が伴ってヒットしたからいいようなものの、結局は出してみないとわからないのがエンタメ業界の常。
ズッコケて続編出すのは無理です! となれば、ユーザーからは永遠に「殻の続きはどうなった!?」と言われ続けるリスクを伴います。
もちろんブランドイメージ的にはプラスであるはずもなく。
杉菜水姫の精神はきっと鋼でできている。

……まあ、『FLOWERS』出し始めたあたりで「続きは!?」って結構思ってはいましたが(笑)


おわりに

ただね、虚がね、こっちも覚えてなんですよ。
え、やるの? これから?
先に『カルタグラ』かなあ。
こっちはさらに覚えてないですし、もっといえば『ピアニッシモ』なんてそもそもまだプレイしてないですし。
とはいえ、趣味をタスク化してはいけないというのが私のポリシーなので、それもまあいずれ。
いろいんな意味で時間を感じられて、とても良い再プレイな一本でした。

2021.02.21