虚ノ少女 感想

「本当の私を探して欲しい」なんて言われていたのに結局本人ごと行方不明、なんてまさかのエンディングから5年、ようやく続編が出ました。
しかも実はこのシリーズ三部作でした、なんておまけ付き。
もう一本出るのか……。
まあいろいろと放置されるよりはマシですけれども。

全編を通し、情報の出し方が絶妙です。
事件についてはユーザーにも推理できるレベルでところどころにしっかりヒントが出ますし、登場人物の背景についても上手いこと先回りできるようになっています。
主人公たちより少し早く気づけるというのが非常に気持ちいいです。
そしてこちらがなんとなく気づき始めた頃に、話の展開もそちらへ向かって動き出すようになっています。
この流れが実に良かったです。
ただしラストの尚織と間宮のつながりだけが、どうも唐突だったように感じます。
話の展開から確かに両者を結びつけることはできないでもないですが、あくまで消去法での話になってしまいます。
伏線を張って事前に匂わせておく、というのはありませんでした。
この点以外は非常に上手いこと情報がまとまっていただけに、どうしても気になってしまいました。
伏線に私が気づいていない、覚えていないだけという可能性もありますけれど。

本作も、大筋としては連続猟奇殺人事件を追いかける、というものなのですが、如何せん人殺しが多すぎます。
終わってみれば登場人物のほとんどが人殺し?ただ今回は、エグさが幾分か軽減されているような。
殺人者の母数が多いので、全体で見ると異常者率が引き下げられているからでしょうか。
なんだかんだで普通(?)の殺人事件が多かったように思います。
まあ多分、1番エグかったのはラストの冬子なのですけれども。

今回、キャストが非常に素晴らしいです。
よくぞここまで私好みの人選をしてくれたものです。
特に野月まひる氏にライアー作品以外でお会いできたのが感動的でした。
また細かい所にまで気を使っており、例えばキャストの名義。
過去と現在に共通して登場するキャラクターの一部に別名義で同じ人をあててたりします。
こういう心遣いは嬉しいです。
ただし、もう少し演技を区別するかキャストを工夫するかしないと、特徴ある声質だとなんとなく気づいてしまいます。
他の一人で複数役こなされている方は同一名義だったりしますので、名義を分けていることで逆に「これは何かあるな」と気になってしまいました。

しかしながら、三部作です。
三作目はどうなさるおつもりなのでしょうか。
本作は『カルタグラ』とかなり結びつきが強いので、下手したら『カルタグラ』『殻ノ少女』そして本作『虚ノ少女』で三部作でした、なんてことになりかねません。
また、一作目と比較してタイトルとの本編の結びつきが弱いかなあと感じました。
『殻ノ少女』はまさに冬子のことでした。
本作『虚ノ少女』の場合は雪子を指している、ようですがどうにも。
確かに「虚」の字が雪子の精神的な部分を暗示はしていますが、どう考えても話の中心はヒンナ様でした。
あんまり雪子がいる必然性も無かったような。
もちろん、本筋にはしっかり組み込まれていて不自然に浮いている、なんてこともなかったのですが、わざわざタイトルに使うほどの存在感はありません。
『殻ノ少女2』ではあまりに味気無いので、ちょっとひねってみたのは分りますが、そちらに引っ張られすぎるのも考え物です。
この流れで行くと次もまた別の「カラ」の字が当てられるのでしょうか。
変な縛りで自分の首を絞めることならないか不安です。

今後の展開が、本当に三作目まで辿り着けるのかという点含めて、非常に気になります。
三部作、序破急の「破」であることを鑑みても、いろいろと破りすぎで不安さえ感じる一本でした。