遥かに仰ぎ、麗しの 感想

過去に友人に借りてプレイはしたものの、ディスクは手元に置いておらず、どうしようかなと遥か昔に悩んでいたまま放置していた折に、廉価版セットのような形でPULLTOPが発売してくれたので買いました。
久しぶりにプレイすると、思い出補正が強烈で。
それ抜きでも、充分に楽しめる出来だと思います。

実に思い切りの良い構成です。
本校ルートと分校ルートで完全に別の作品になっています。
本作の場合、ルートによって結構ライターに好き勝手させてしまっている感があり、それが上手く作用したように思います。
複数のライターにシナリオを書かせると、大抵キャラクターの同一性が保てずに細かなところでのちぐはぐさが目立ってしまいますが、本校組と分校組で、同じ学園内でありながらやんわりと集団を分け、登場キャラクターをある程度振り分けたのも功を奏しています。
どうしても違う人間が書けばキャラクターもブレてきますから、ならばいっそあんまり出さなければいいじゃない、そういう発想でしょう。
本校ルート分校ルート両方に常時登場するキャラクターというのは、よくよく見れば少ないです。


本校ルートは、まさに正統派です。
移り行く季節に起承転結を上手く対応させて物語を構成しています。
基本的に主人公が良く出来た人間として描かれているので、不快感もまったくありません。
最後もきっちり締めてくれます。
END後のスカッとした感じがたまりません。

それに対し分校ルートはやや変化球です。
本校ルートが「閉ざされた特殊な環境の学園」というところに焦点を当てていたのに対し、分校ルートは「金持ちの家のわけありな娘たち」というところに焦点を当てています。
巨大な企業グループ同士のいざこざ(というにはあまりに大規模ですが)や隆盛、そんな面倒ごとに巻き込まれた娘たち、そういった展開が多いです。
主人公の印象もガラッと変わります。
分校ルートの主人公は、どうにもいまいちダメなやつです。
ほとんど躊躇いなく教え子に手を出しますし、教師としての熱さに欠けます。
個人的には本校ルートの主人公のほうが好きなのですが、新米教師というところで見れば、どちらもそれらしいっちゃそれらしいんですよね。
希望に満ちた熱い志を持った姿、大学を出たばかりでまだ学生気分が抜けきらず教え子と視点が近い姿、どちらも新米教師像としてしっくりくるものです。

世界観にせよ主人公にせよ、同じ素材を与えられてもライターの解釈次第でこれだけ違うものが出来るというのが面白いです。
分校ルートの方は「見方によってものの見え方は全く異なる」というのがちょっとしたテーマみたいになってますし、分校ルート全体を通しての仕掛けにもなっています。
なのでもしかすると、最初からあえて違うものを作らせるというコンセプトで企画された作品だったのかもしれません。
「一本で二度美味しい」なんて謳いつつ、実際には両方合わせても一本以下な半端なものを抱き合わせにした商品なんていうのはゲームに限らず多いものですが、本作に限っては、本当に一本で二度、あるいはそれ以上に美味しい出来になっています。
シナリオライターの複数起用の弊害を、これでもかというくらいに上手く利用してプラスに転換した一本でした。