はるとゆき、 感想

お約束の中島大河買いです。
温泉モノらしい事だけは事前に確認しました。
当サイトに掲載している温泉モノタイトルだと『ゆのはな』とか、変化球だと『霞外籠逗留記』なんかも該当するかもしれません。
……いや、『ゆのはな』は銭湯か。

で、蓋を開けてみたらコスプレ旅館?実にいかがわしい響きです。
何故それ混ぜた?みたいな疑問が頭の中でぐるぐるします。
掟破りのピンクコンパニオン物語か!なんて期待が一瞬膨らんだのはここだけの話。

ただ、そこは中島大河クオリティ。
従業員がコスプレをしている理由はちゃんと説明されています。
突飛な設定ほど理由付けが非常に重要になります。
これが弱いと、謎の部活系学園モノみたいな目も当てられない事態に陥りますので。

しかしながら、どういう経緯と連想でこの企画が生まれたのか非常に気になります。
キーワードをたくさん羅列して無作為に選んだのが「温泉旅館」と「コスプレ」だった、という予想が私の中で一番しっくり来るのですがいかがでしょうか。
あるいは、「未練を残した死者を成仏させる旅館なら、いろんな格好の人が来るから仲居もコスプレだな!」みたいに、いきなりこの形でアイデアが降ってくるか。
何か閃く時ってそういうのありますよね。

当然の流れで、エロシーンはコスチューム充実です。
中島氏の描くエロシーンは、主人公とヒロインの会話が多いから好きです。
ヒロインのセルフ実況中継は嫌いです。
会話といえば、意図してかどうかは知りませんが、中島氏の描くヒロインは「~だわ」とか「~かしら」みたいな女性言葉あまり使いません。
これも好きです。
個人的に、現実世界ではすでに死んでる役割語を使うのは好ましくないと思っています。
お約束だから、という思考停止で作られた設定をよしとする製作から面白いものは生まれにくいという経験則があります。
お約束を使うな、という話ではなく、使うなら噛み砕いてその作品の中にしっかり落とし込んで欲しいのです。
端的にいうと理由付けが欲しいのです。

大分話が脱線しました。
結論は、中島氏はそれぞれが何らかの理由に基づいて設定を組み立てられる優れたクリエイターだという事です。

ストーリーは結構予定調和感強いです。
基本ほんわか系の、最後にちょっとほろりとくるこの感じは、『働く大人の恋愛事情』とも違う、今まで知らなかった中島氏を感じられて良かったです。
まあ、言っても氏のタイトルを半分もプレイしていない私が言うのもあれですけれども。

クリア順はネコ⇒小羽⇒咲奈⇒傘でした。
小羽終わった辺りで、ああこれは各ルートで誰かしら逝く流れだな、みたいな雰囲気を感じ、じゃあ咲奈で主人公、傘でトキさんあたりかなあ、なんて思っていましたが、そこは予想大外しでした。
傘ルートに開放条件まで付けたんだから、これは主人公と傘の二人に「ゆき」を託してトキさんの未練が解消される、とかそういう妄想だったのですが。
そこの予想当てて楽しむ遊びではないのでどうでも良い話ですけれども。

実も蓋もない話をすると、旅館「ゆき」の経営ってどうなっているのでしょう。
母体は旋太郎の実家の寺みたいな話がありましたが、半ば慈善事業みたいな事やってて採算は?やはり番頭、板前、女将が未練残し組だと、そういう経営が可能なくらい人件費激安なのでしょうか。
一般的な旅館の経営が良く分からないので何ともいえないところですが。
あとは「ゆき」に来るほど未練を残して死ぬ人っていうのはどれくらいの割合いるんでしょうか。
日本の死者数は1日平均3000人強らしいので、1000人に1人クラスの強い未練を残したとしても1日3人。
「ゆき」のような施設が他にも存在する可能性があります。
作中のペース的に考えると、1万人に1人よりももっと少なくてちょうどくらいでしょうか。
あのお侍さんがどれほど本気だったのか窺い知れる数字ですね。

まったりと楽しむには持って来いの作品でした。
転職活動で荒んだ心に染み渡る、心の露天風呂的なあれです。
プレイするタイミングって大事です。

ありたがやーありがたやーな一本でした。

2018.09.04